第8話 間違って召喚術

「燃やした?」

 白い姉の顔、眉間にシワ寄せて聞き返してきた。

「火葬…だから」

 母親が答えた。

 そう、この国で火葬文化が根付いて、どのくらいかと問われれば知らんのだが、シルク的には超BAD‼であったらしい。

「燃やしたら…もう…復活できない…」

 絶望的な表情であったらしい。

 そう、会場から控室へ軟禁されていたシルク、出棺には参加できなかったのだ。

 まぁ、ほとんど葬儀そのものに参加してないわけだが…。

「シルクちゃん…」

 母親の言葉を最後まで聞かずにシルクは走り出した。

 滅多に走ることなどないのだが、足は速い。

 走行フォームはスプリンターのソレである。


 シルクは急いでいた。

 家で調べなければならない…灰からの蘇生術を。

 シルクは知っていた。

 ひたすらダンジョンを彷徨うゲーム内で灰から蘇生する術があったことを…。

 途中で見つけた教会に駆け込んだシルク。

 息も整わぬまま尋ねてみた。

「カント寺院はご存じですか?」

 神父は知らなかった。

 カント寺院も灰からの蘇生術も。

 調べるしかない‼

 ググれ‼シルク‼


 家に着いたはいいが、玄関のカギを持っていないことに気づいたシルク。

 迷わずリビングの窓を割って帰宅した。

 躊躇わない性格なのだ。

 戦場なら高い生還率を叩きだすタイプである。


 もちろんガラスなんか片付けている暇などない。

 破片を踏んだら危ないから靴のままリビングを駆け抜け部屋へ向かうシルク。

 自室へ入る前、ちゃんと靴を脱いで入るシルク、そういうタイプだ。


 パソコンで『灰からの蘇生術』をググるシルク。

 慌てていたため『ハイカラの祖誠地涌津』と誤変換してしまうほど慌てていた。


 検索とサーフィンは深夜に及び、葬式の残り物である寿司を差し入れられたシルク。

 なぜ握り寿司はエビの尻尾を処理しないのか疑問を抱きつつ蘇生術を調べまくった。

 途中、江戸前寿司の事も調べた。

 エビの尻尾については、何も解らなかった。

 解ったことは尻尾まで食う輩がいるらしいということだけであった。


 シルクの検索は朝まで続き、力尽きたシルクは昼まで寝た。

 起きると母親がリビングのガラス窓破壊の件について怒っていたが、特に気にはしなかった。

 気にするくらいの性格なら最初から割らないのである。


 そして、その夜…

 昼から崩れた天気は雷雨となり、夕食は『オムライス』であり、シルクだけ『デスソース』をドバドバかけて、泣きながら食べていた。

 涙を拭きながら部屋に戻ったシルク、ニタッと笑って壁にスプレーで魔法陣を描きだした。

「フフフッ…ウフフフッ…出来た…出来まくった…フフフッ」


 そして、雷雨の中…シルクの部屋で儀式が決行されたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る