第7話 お手軽蘇生術

 友引を避けた為、『桜塚リョーサク』の葬儀は2日後であった。

「シルクちゃんは?」

 祖父が病院へ運ばれ還らぬ人となってからシルクは部屋に引き篭もった。

 時折、祖父の部屋へ行くことはあったが、何やら慌ただしい様子のシルクに家族は声を掛けられなかった。

 そもそも葬式の準備で皆がバタバタとしていたのだ。

 当然のように忙しそうなシルク、やたらアクティブな引き籠りを開始していたのである。

 母が式場でシルクを見失い、そのまま坊さんの時間の都合で葬儀は開始されてしまったことは。今に思えば不幸なことであったとチタンは思う。

 あの時にシルクを見つけてさえいれば…。


 引き籠っていたシルク、部屋に持ち込んだ祖父のパソコンから、怪しげなサイトへ、その流れでディープな情報を収集してしまったことが、後に悪魔を召喚しちゃうことに繋がるのだ。

「蘇生の儀?」

 ご丁寧に動画付きのサイトを見つけてしまったシルク、その日から引き籠りを加速させて『蘇生の義』完遂に、のめり込むである。

 シルクは部屋で死者蘇生のための舞を練習しながら、儀式に必要とされるアイテムを遺品から回収し、決行の日(葬式)に備えていたのである。

 多少なりとも祖父の突然死に関与していたという事実から原因の数%は自分にあると思っていたのかもしれない。


 葬儀会場へ、リュックを背負ってやってきた姉シルク、今から思えば、あの時点で誰か気づいていれば、現在シルクは、あぁは、なっていなかったかもしれない。

 葬式が始まる直前までシルクがいないことに気づかなかった家族一同に責任が無いとも言えないだろう。

 会場入りしたシルクはアタフタと棺桶の周りに祖父の遺品を並べ始めた頃は、あぁ…孫が祖父を送るためになんかしているんだなと温かい目で皆、見守っていた。

 今に思えば、ソレがいけなかったわけだが。


 坊主が厳かに経を唱え出し、シルクが不在で、チタンは姉の姿を見てないな~と思いながら意味の解らん経を聞いていた。

 突然、舞台袖から乱入してきた姉シルク、坊主の前で弟に宣言したのだ。

「お姉ちゃんは今日からソーサラーになる‼」

「ソーサラー……何それ?」

 壇上から棺桶の前に飛び降りて、事態を把握しないまま経を唱え続ける坊主を無視して独特のリズムと動きで棺桶の周りを舞い叫ぶ姉。


「…………甦れ‼ リョーサクーーーー‼」


 シルク渾身のシャウトが響いて、数秒の沈黙の後、式場の人が姉を会場から遠ざけたのであった。


 姉は、あの日…『ソーサラー』としての1歩を踏み出したのです。


 桜塚家の残念な日であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る