エピソード・ゼロ

第6話 リョーサク死す

 特に爺ちゃん娘であったわけではない。

 だが少なくとも、姉シルクが、あぁなったのは祖父リョーサクの死であることは間違いない。

 リョーサク最後の言葉…それは、

「まるで本物のミカンのようなグミ? じゃあミカン食えばいいじゃん」

 本質を見失わない理系の男であった。


 理科教師であった『桜塚リョーサク』何よりカエルの解剖が大好きで、解剖に使うカエルは自ら沼に出向いて毎年、調達してくる熱の入れようであった。

 そのせいか、祖父の部屋は実験室のような器具が揃えられていた。

 姉シルクに様々な実験を手伝わせていたリョーサク、姉シルクが理科器具に執着するのは、こういうところから来ているのだとチタンは思っている。


 ある日、姉シルクが渡したグミを大変気に入ったリョーサク、柔らかいモノを好む歳になったわけで、口寂しくなるとグミやらソフトキャンディをモグモグさせていた。

 そのうちチマチマと食べるのが面倒になったリョーサクは、よせばいいのに市販のグミを一袋に固めて食べだしたのである。

 その手の工程には困らない実験器具が部屋にはあったわけで、様々なオリジナルグミやらソフトキャンディを創作していた。

 姉シルクが祖父の創り出すグミに興味をもったのは言うまでもない。


 祖父リョーサクは理系であったがために創り出す工程が科学であったが、姉シルクは特に理系というわけでもないために魔学へ走っていったということなのかもしれないとチタンは思うのである。


 祖父に懐いていたというより、祖父の行動に興味を惹かれたというほうが正しいのだろう、あるいはグミが好きなのかもしれない。


 そんなわけで、日々、帰宅後は祖父リョーサクの部屋で過ごすことが多くなっていった姉シルク。

 定年退職後、孫とのグミ作りが日課となった祖父。

 2人の関係性は『グミ』によって繋がっていたのである。

 理数系ではないシルク、グミ製作を経て魔学へと大胆なギアチェンジをしでかしたのは、その祖父の突然死であったわけだ。


 祖父リョーサク他界、夕食後のことであった。

 ミカン箱に大量に余っていたミカンをグミ化しようとシルクは祖父の部屋へミカンを運んだ、そのまま果汁を絞ってとか工程を踏んでいる最中のことである。

「ミカン味ではなくミカンを目指したいの」

 姉シルクは向上心が半端ない子供であった。

「どーゆうこと?」

 祖父リョーサクはグミの質には拘ったがフレーバーには着目していなかったのだ。

「ミカンを食べているかのような錯覚を引き起こすグミを作りたいの」

 首を傾げた祖父リョーサク

 しばらく考えてミカンを数粒、口に頬張った…。

 飲み込む前に発した一言…。

「まるで本物のミカンのようなグミ? じゃあミカン食えばいいじゃん」

 ストンッと喉に落ちた一粒のミカン…クリティカルヒットであった。

 シルクの目の前で『桜塚リョーサク』還らぬ人となったのである。

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