第4話 黒いシチューは食べられない
その日の夕食はクリームシチューであった。
学校から連絡を受け母は迎えに行ったのだが、シルクはすでに早退済みであった。
なぜか校門の前で息子チタンに会おうとは…。
犬も歩けばなんとやらである。
「油断のならない世の中よ…魔界を超えたカオスを感じるわ、この家族には」
クロコが呼ばれた理由は解らなかった。
備品を持ち出すのを手伝わせるつもりだったのか、職員室からの脱出を手伝わせるつもりだったのか、それは解らない。
「学校の備品は質が良い…ウフフ」
帰宅早々、シルクはボソリと呟いた。
なんだかんだでシリンダー1本を拝借してきたシルク満足そうな黒い笑顔である。
シリンダーを撫でながら階段を上がっていくシルクにチタンが声を掛けた。
「姉ちゃん、今晩クリームシチューだってさ」
パリンッ‼
歩みを止め、せっかくパクッてきた…いや拝借してきたシリンダーを落とすほどの衝撃だったらしい。
「クリーム…シチュー…」
ゆっくりとチタンの方へ向き直るシルク。
「な…なんだよ?」
「クリームシチュー…白くない?」
「……まぁ…白系だよな…茶色だとビーフシチューじゃん、そういう線引きでは白い」
「……ブツブツブツブツ…」
綺麗に整えられた眉を歪めて小声で何事か呟きながら、割ったシリンダーは、そのままにしてシルクは部屋へ戻った。
「チタン、片付けておけよ、踏んだら危ないからな…ワタシが」
「なんで、ぬいぐるみのオマエが危ないんだよ‼」
「なんか、違和感が…うん、イラッとするんだわ」
すでにガラスを踏んでいたクロコ。
足の裏をチタンに見せる。
(コイツ…肉球まで付いていやがる…)
姉シルクが制作した黒猫のぬいぐるみ『クロコ』の意外なクオリティの高さにイラッとしたチタン。
「コレは?」
チタンの前にコトリと置かれた皿には黒いシチューが湯気を立てていた。
「それがね~ママ、ちょっと目を離した隙にシルクちゃんが…ね」
「ふぅ~っ」とため息を吐く『シルクママ』
「ほぉ~魔女風暗黒煮込み汁か~」
シチュー皿を緑色と赤色の目で覗き込むクロコ。
そう猫のぬいぐるみはオッドアイである。
シルクは、そういうモノに憧れるお年頃なのだ。
「グフフッ…ダークマター…漆黒の混沌…魔女の気まぐれシチュー…全部黒くて…全部いい」
いつの間にかテーブルに座ってニタニタと笑っていたシルク。
スプーンで黒いシチューを混ぜて愉しんでいる。
「姉ちゃん…何が入ると、黒くなるんだ? いや何を入れたら黒くなったんだ?」
「確かに気になるな? ニンジンまで黒いな…短時間で食材をこうも変えるとは…才能を感じせざるを得ないな」
感心するクロコ。
(食えるのだろうか?)
作ったシルクは板チョコをパキッと歯で割って微笑みながら部屋へ戻った。
(食えねぇんだな…)
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