第3話 黒い服であれば、なんでもいい

 その日、一日は気が気でなかった。

 体育の時間で跳び箱を飛ばずに激突して保健室に運ばれても考えるのは黒髪が綺麗な姉のことばかり。

(シスコンなのか?)

 考えるのは姉のことばかり…

 シルクは今日も黒いショーツなのか?

 シルクの黒スト…長い足…あの足に踏まれたい。

 シルクの黒ストが欲しい。

「んなことは考えてねぇ‼」

 枕元で勝手なことを、ほざいていたクロコ、悪魔が宿ったぬいぐるみである。

「元気そうでなによりだ、チタン、跳び箱とは飛ぶための障害だと思うのだが…なぜ正面突破を試みたのか? 男気ってやつか?」

「うるせぇ‼ 考え事をしていただけだ」

「あぁ~シルクのショーツのことか、今日も黒だ、平常運転だ」

「姉ちゃん…大丈夫かな?」

「シルクのショーツは大丈夫だと思うぞ だからと言ってオマエの物にもならんと思うがな」

「で? クロコ、オマエは何んでココにいる?」

「うむ…シルクから呼び出しがあってな」

「大丈夫じゃねぇじゃねぇか‼」

「ショーツは大丈夫のようだ」

「このバカ猫が‼」

「私は化け猫ではない、悪魔だ」

「早く行けよ馬鹿‼」

「そのつもりだが…さすがに、この姿で歩き回るのは目立つのでな、オマエに連れてってもらおうかと思ってな、そしたら跳び箱を正面突破しようとして脳震盪とか…ププッ…笑えた」

「うっせぇ‼ 行くぞ‼」

「目覚めた早々からテンションの高いことで…このシスコンが」


 そんなわけで早退を決め込んでシルクの通う中学校へ急ぐ小学生とぬいぐるみ。


「はぁ…はぁ…」

「早かったなぁ~、チタン、マラソン大会とか上位入賞できんじゃねぇか? ゴールでシルクが待ってたら、カハハハ 副賞は黒いショーツで~す」

「オマエ…もう魔界へ帰れ…」

 送れるものなら送り返したい。

「魔界にクーリングオフとかないんだよね~」

「で…どうしようか…」

 勢いに任せて走ってきたが、ランドセルを背負ったまま中学校へ入ることは意外に敷居が高いことに気づいたチタン。

「案外、堂々と正面から入れば大丈夫じゃね? ほらっ、跳び箱も飛ばずに正面から突破しようとしたじゃない」

「そして失敗して脳震盪だったはずだが…」

 校門の前でウロウロしているチタン。


 同時刻…

 理科室で実験道具を鞄に詰め込んでいるところを現行犯逮捕されたシルクが職員室で説教を受けていたのである。

「学校の備品を勝手に持ち出してはいけません‼ 堂々と何をしてるんですか‼」

 他の学年が実験中に無言でスタスタ入ってきてガシャガシャ詰め込んだらしい。

「勝手に? 言ったら許可が下りるんですか?」

 コソコソするのは性に合わないらしい。

「そもそも何に使う気なんです? 桜塚さん」

「広い意味で就職活動?」


 学校の備品を持ち出そうと登校したシルクであった。

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