第2話 黒い調味料といえば?

「目玉焼きには醤油一択」

 朝食には目玉焼きは欠かせない。

 そんなチタンのこだわりは目玉焼きには醤油なのである。

 塩も胡椒も必要ない。

 醤油は全てを網羅している。


「馬鹿がドボドボと品の無いことだなチタン」

 当たり前の顔でチタンの正面に座る黒い猫のぬいぐるみ。

 その名は『クロコ』

 ぬいぐるみに憑依した悪魔である。

「クロコ…悪魔が塩好きってどうなのか?」

「塩で悪魔が祓えるとでも思っているのか? どういう原理だ? 説明してみろチタン」

 この悪魔、目玉焼きは塩派である。

「ママさん、シルクの朝ご飯を頼む」

「まぁ、悪いわね~クロコちゃん」

「気にするな、主を甘やかして堕落させるのも悪魔の務めだ」

「オイ‼ 今、堕落って言ったか? 言ったな‼」

「……言ったか? だとしたら忘れろ…それがオマエのためだ」

「脅してんのか? この野郎‼」

「悪魔は人など脅さん…ただ甘やかして堕落させるだけだ」

「また言ったな、姉ちゃんを堕落させる気なのか‼」

「……そう言ったつもりだ」

 目玉焼きをペロンッと食べてトレーに乗せた朝食をシルクの部屋へ運ぶ猫のぬいぐるみ。

「姉ちゃん…堕落の真っ最中なのか…」

 言われてみれば、引き籠っているわけで登校なんざ、理科室の備品を借りパクするときくらいにしか行きゃしねぇ姉シルク、堕落と言わずに何と言おうか…。

 トタトタと2回からクロコが降りてきた。

「うっかり、ソースを忘れてた…いかんいかん」

(調味料も黒…もはや呪いなのか…)


 思えばコイツが召喚された夜…外は雷雨で、夕食はオムライスで、皆がケチャップをかける中で…姉だけデスソースであった。

 辛さで泣きながらオムライスを食べる姉、子供ながらに思ったものだ。

(泣くほど辛いのに辛さを求めにいく気持ちが解らん…)


「辛い物を好きな女は浮気する」

 父の言葉である。

 常に刺激を求めるから…それが根拠であるらしい。

 姉は、ビッチになるのだろうか?

 子供ながらに心配したものである。

 結果、『bitch』の前に『hikikomori』になられたわけだが。

「…まさか堕落の過程だったとは…」


 姉シルクは悪魔を召喚して堕落させられていたのかと思うと…もう…。


 テクテクテク…

 階段を降りてきた姉シルク。

「えっ?」

 まさかの制服姿である。

「姉ちゃん…?」

「まぁ、シルクちゃん、学校行くの?」

 コクリと無表情で頷くシルク。

 制服は黒いから好きなのだそうだ。どうでもいいが。


 久しぶりに見た姉は、黒髪のアジアンビューティー。

 そのまま革靴を履いてスッタラスッタラ家を出ていったのだ。


「クロコ…何があったんだ?」

「ん? 知らんぞ、突然制服に着替えたから驚いたわ」

 コレは一大事です‼

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