ウチの姉はソーサラー
桜雪
黒の章
第1話 黒いショーツと黒い猫
「…………甦れ‼ リョーサクーーーー‼」
隣の部屋で絶叫する姉貴の声で目が覚めた。
(そうか…今日は爺ちゃんの命日だったんだ…)
爺ちゃんが死んだ2年前の葬式の夜、泣きながら僕の姉貴は突然『ソーサラー』を名乗ったのだ。
「お姉ちゃんは今日からソーサラーになる‼」
「ソーサラー……何それ?」
坊主のお経を無視して踊るマイシスター。
親族はもちろん、家族すら止められない真剣な表情であったこと…忘れない。
葬儀の最中に棺桶で怪しげに舞い、ブツブツと呪文?を唱え、突然叫ぶ。
姉の御乱心を目の当たりにした参列者一同の涙を誘っていたことを覚えている。
「可愛そうに…色んな意味で…」
そんな感じだった。
姉貴の服は、あの日から黒に統一され、部屋はサバトに変わった。
父親のカードでネットショッピングをしまくり、ある日限度額を超えて発覚したのだが、怪しげなグッズが毎日届いていた、あのひと月、空箱潰しを手伝わされた日々を僕は覚えている。
もはや姉貴の部屋には誰も入れない…。
あの猫…のぬいぐるみ以外は…。
「退け‼ 邪魔よチタン」
二足歩行する黒猫のぬいぐるみ、姉貴のお手製である。
そのぬいぐるみが、ある日、喋りだし歩き出し、今やあの態度である。
「ぬいぐるみ風情が偉そうに……燃やすぞこの野郎‼」
「偉そう? ワタシが従うのはサタン様と召喚者だけだ…それ以外はゴミだ‼」
「サタン様だぁ~、一文字違いで、えらい違いだな~おい」
「一文字違いでオマエは金属だ馬鹿‼」
「チタンは意外と高価な金属なんだぞ、この野郎‼」
「シルクの部屋の前で騒ぐな‼ 無駄な儀式の最中らしい」
「オマエ…今、無駄って言ったな? 言ったよな」
「……そうか? 言ったか? まぁどうでもいい、とりあえず退け、シルクの下着を洗濯してきたのだ……1枚欲しいのか? それで待っていたのか? 契約しだいで渡してもいいが?」
「いらん‼」
「ホントか~? シルクは中身はアレだが、美人だと思うぞ」
「DNAがそうさせるのか、美人でも身内には欲情しないものだ…不思議と」
「そういうものか…は~ん…悪魔のワタシには解らんがな」
黒い下着を抱えて黒猫のぬいぐるみは姉貴の部屋に入っていった。
慣れてしまったが、姉貴が作った猫のぬいぐるみが歩き、喋った夜を僕は忘れない。
「慣れちゃダメだ…慣れちゃダメだ…慣れちゃダメだ…僕は…僕は‼ 桜塚チタン‼ 普通の小学5年生です‼」
「うっせぇぞ‼ 初号機パイロット気取りか‼」
姉の名前は『桜塚シルク』中学2年生…反抗期と中二病を同時に併発した眉目秀麗なメンヘラです。
顔はいいけど、口と性格が悪い…メンヘラです‼
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