「胡」匈奴(1)

※小説本編 https://kakuyomu.jp/works/16817330654652941795


 小説のなかで「」とまとめて呼ばれる少数民族の代表的存在、匈奴きょうどについて解説します。


 匈奴きょうどしんかんといったいわゆる「中華王朝」から見て北に位置する北アジア地域、特にモンゴル高原を最初に支配した北方騎馬民族です。


 モンゴル高原に馬を駆り遊牧をして暮らす人々、北方騎馬民族とされる人々は、中華王朝が誕生した頃から存在しました。


 なぜ存在していたことがわかるかというと、最古の中華王朝(前一七世紀頃)であるいんしょう)で使用された甲骨文こうこつぶんに記述が残っているからです。


 この北方騎馬民族とされる人々はさまざまな部族にわかれ、さまざまな名前で呼ばれ、中華王朝の歴史書の中に現れては消えていくことをくり返しました。


 そのなかで初めて諸部族をたばね北方騎馬民族国家をきずき、五〇〇年にわたり存続した人々、とされているのが匈奴きょうどです。


 匈奴きょうどの名前が最初に中華王朝の歴史書に現れるのは戦国時代の前三一八年に起きた、しんと五カ国連合との戦いです。このとき匈奴きょうどは五カ国連合の側に立ちましたが、戦いは五カ国連合の惨敗に終わっています。


 そしてこの頃から、匈奴きょうどは歴史書のところどころに記述されるようになります。


 記述の多くは、中華王朝との戦いに関するものです。


 たとえば前二一六年、匈奴きょうどしんの阿房宮という宮殿を襲撃し、宮女や役人を拉致しました。


 これに対してしんの始皇帝は翌年、『キングダム』でもおなじみの蒙恬もうてんをオルドス地方へおくり、匈奴きょうどを討伐させています。


 始皇帝と蒙恬もうてんによって匈奴きょうどは一時勢力を削られました。


 しかしその六年後、父である単于(匈奴きょうどの王)を殺して単于に即位した冒頓単于ぼくとつぜんうによって、匈奴きょうどは最盛期をむかえます。


 冒頓単于ぼくとつぜんう東胡とうこ丁霊ていれい月氏げっしといったほかの北アジア諸部族を撃破。前二〇〇年、かん高祖こうそ劉邦りゅうほう)を包囲して苦しめます。


 その三年後、匈奴きょうどかんと和平を結びます。


 和平の内容は単于ぜんう匈奴きょうどの王)に公主こうしゅ(皇帝のむすめ。いわゆる和蕃公主わばんこうしゅ)を嫁がせること、またかん匈奴きょうどに毎年米や絹などを送るといった、一方的なものでした。


 この和平を恥辱と感じ、また和平を結んでも止まない匈奴きょうどの襲撃に対して、かん武帝ぶてい匈奴きょうどとの全面戦争を決断します。前一三三年前後のことです。


 かん武帝ぶていは対匈奴きょうど同盟をほかの諸部族と結ぼうと、大月氏だいげっし(使者は張騫ちょうけんという人物で、途上で匈奴きょうどにつかまり一〇年間捕虜になるなど辛酸を嘗めました)や烏孫うそんに使者を派遣しています。


 また李広りこう霍去病かくきょへい衛青えいせい李広利りこうり李陵りりょうといった将軍たちが匈奴きょうどと激しい戦いをつづけました(中島敦の小説「李陵」はこの時代を舞台にしています。https://kakuyomu.jp/works/16817330651496131786)。


 こうしたかん武帝ぶていによる外圧、そして天災の連続と匈奴きょうど宮廷内での内紛によって、匈奴きょうどはしだいに弱体化していきます。


 匈奴きょうどに従っていた諸部族も蜂起し、ついに匈奴きょうどは東西に分裂します。


 ひがし匈奴きょうど呼韓邪単于こかんやぜんうは前五一年にかんへ臣従しました。


 西にし匈奴きょうど郅支単于しっしぜんうは前三六年、シルクロードに位置した康居こうきょ(現在のウズベキスタンの首都タシケントではないかと考えられています)でかん軍によって処刑されます。


 こうしてしんかんの中華王朝と匈奴きょうどとの長い戦いは、中華王朝の勝利という形で一応の収束をむかえます。


 特に前三三年に王昭君おうしょうくん呼韓邪単于こかんやぜんうのもとへ嫁いだ以降、匈奴きょうどかんの関係は安定します。かん公主こうしゅ単于ぜんうへ嫁ぐのとは反対に、単于ぜんうは代替わりの度に息子たちをかんの宮廷へおくり、かんへ従うようになりました。


 というのが匈奴きょうど五〇〇年の歴史の前半です。後半につづきます。


※小説本編 https://kakuyomu.jp/works/16817330654652941795

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