■読書案内――石崇

 伝説級の富豪・石崇せきすうの金持ち伝説はおもに『世説新語せせつしんご』で読むことができます。

 

 『世説新語せせつしんご』は五世紀に生きた劉義慶りゅうぎけいという南朝のそう劉宋りゅうそう)の王族が編纂した書物で、後漢ごかん末から東晋とうしんまでの著名人の、あんまり重要ではないけれどおもしろい短い話(逸話いつわ)がたくさんまとめられた本です。

 

 逸話いつわはジャンルごとに「へん」にまとめられています。

 

 たとえばウィットの効いた返事をして相手をやっつけた話は言語篇げんごへん、著名人が著名人をほめたセンスのいいほめ言葉の話は賞誉篇しょうよへん、といった感じです。

 

 これらの篇のなかに贅沢の話をあつめた汰侈篇たいしへんがあり、せきすうの話はおもにここに収められています。

 

 石崇せきすう汰侈篇たいしへんの全一二条の話のうち七条に登場し、この篇の半分以上をジャックしています。

 

 なによりも金持ちとして名を残した人物が石崇せきすうでした。

 

 『世説新語せせつしんご』のおすすめの邦訳は以下の二冊です。

 

 ●森三樹三郎、宇都宮清吉訳『中国古典文学大系第九巻 世説新語・顔氏家訓』(平凡社、一九六九年)

 

 読みやすい日本語で訳された『世説新語せせつしんご』の全訳です。はじめて『世説新語せせつしんご』を読む方におすすめの一冊です。

 

 原文(漢文)や書き下し文などは載っていません。

 

 人名索引は『世説新語せせつしんご』の末尾、次の『顔氏家訓がんしかくん』が始まる前に収録されているので、石崇せきすうはじめ気になる人物の話を読みたいときに活用してください。

 

 ●目加田誠訳『新釈漢文大系第七十六・七十七・七十八巻 世説新語 上・中・下』(明治書院、一九七五~七八年)

 

 こちらも全訳であり、通釈つうしゃく(≒訳文)、原文(漢文)、書き下し文、語釈ごしゃく(語ひとつひとつの解釈)が載っている、『世説新語せせつしんご』を精読できる上中下の三巻本です。

 

 人名索引は下巻の最後のほうに載っています。

 

 

 

 ●川合康三「うたげのうた」『中國文學報』53(中國文學會、一九九六)

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/177618

 

 あるとき石崇せきすうは都の郊外・金谷きんこくに大きな屋敷をかまえ、豪勢な宴を開きます。

 

 王詡おうくという人物と石崇せきすう自身の送別会だったこの宴は昼と夜の境もなく、何日も続きました。山にのぼって景色を楽しみ、川や湖の岸辺に座って歓談し、移動中でも楽隊を車にのせて演奏させ音楽を絶やさない、というぜいを尽くしたものでした。

 

 この宴を歴史に残そうという意識が石崇せきすうにあった、と指摘するのがこの論文です。

 

 石崇せきすうの思惑通り、金谷きんこくの宴は贅沢で風雅な宴の代名詞として後世にも語り継がれ、石崇せきすうもまた伝説的な富豪として語り継がれました。

 

 石崇せきすうの強烈な自意識と自負心が感じられます。

 

 

 

 ●久志木梓「三斛の真珠」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887699331/episodes/1177354054887699466

 

 ●同「vol.2 金谷の大豪邸 金ぴかの楽園のそちら側」

『長い3世紀のルポルタージュ』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885983517/episodes/1177354054887596431

 

 せきすうが主要人物の小説です。

 

「三斛の真珠」はせきすうの妾であった緑珠が主人公で、せきすうの最晩年におこったある事件が題材です。

 

「vol.2 金谷きんこくの大豪邸 金ぴかの楽園のそちら側」はせきすう金谷きんこくの豪邸に忍び込む潜入ルポ風小説です。

 

 私が書きました(宣伝)。

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