■読書案内――阮咸

 阮咸げんかんをはじめとした「竹林ちくりん七賢しちけん」たちの活躍、もとい権威や権力に対する批判的で痛烈な言動は主に『世説新語せせつしんご』で読むことができます。


世説新語せせつしんご』はもともと劉義慶りゅうぎけいという南朝のそう劉宋りゅうそう)の文学好きの王族が、主宰していた文学サークルの仲間内で楽しむために編纂した書物でした。


 当意即妙で辛辣な機知に思わずクスリとする、そんな話がたくさん載っています。




●森三樹三郎、宇都宮清吉訳『中国古典文学大系第九巻 世説新語・顔氏家訓』(平凡社、一九六九年)


世説新語せせつしんご』の全訳が収録されています。読みやすい日本語で訳され、書き下し文などは載っていません。はじめて『世説新語せせつしんご』を読む方におすすめの一冊です。人名索引もありますので、気になる人の話だけ読みたい、という読み方もできます。




●目加田誠訳『新釈漢文大系第七十六・七十七・七十八巻 世説新語 上・中・下』(明治書院、一九七五~七八年)


 こちらも『世説新語せせつしんご』の全訳ですが、通釈つうしゃく(≒訳文)のほかに原文、書き下し文、語釈ごしゃく(語ひとつひとつの解釈)が載っています。


 元ネタを解説するすさまじい量の劉孝標りゅうこうひょうによる注釈もすべて訳された究極の『世説新語』邦訳本です。


『世説新語』にどっぷり浸かりたくなったら読んでみてください。




☆劉金宝「太宰治の竹林七賢観」『Comparatio』19(九州大学大学院比較社会文化学府比較文化研究会、二〇一五)


竹林ちくりん七賢しちけん」たちは権力に対抗し世間に背中を向けた隠者たちであり、酒とドラッグ(代表的なものに五石散ごせきさんがあります)を常飲し、儒教じゅきょうに反抗する老荘ろうそう思想や最新の仏教思想を組み込んだ討議・清談せいだんを竹林で行いました。


 というイメージが後世の中国だけでなく日本にも伝わっています。


 その日本化され太宰治が書いた竹林七賢ちくりんしちけんのイメージと、歴史書に残っている「竹林ちくりん七賢しちけん」のちがいについて述べられているのがこの論文です。


 Web上で無料で読むことができるので、ぜひCiNiiやJ-STAGEで検索してみてください。




 余談ですが、山梨銘醸株式会社は七賢という日本酒のブランドを立ち上げています。


 会社の前身である蔵本の五代目が信濃高遠しなのたかとお藩の藩主・内藤駿河守頼寧ないとうするがのかみよりやすから頂戴した、竹林七賢が描かれた欄間らんまが直接の由来だそうです。


 竹林七賢の七人それぞれの名前を冠した「七賢人」シリーズも発売中ですので、成人済みで日本酒をたしなむ読者諸兄姉はご賞味ください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る