■読書案内――左思

●伊藤正文、一海知義訳『漢・魏・六朝・唐・宋散文選 中国古典文学大系第二三巻』(平凡社、一九七〇)


 左思の「三都の賦の序」、「蜀都の賦」が収録されています。


 序で左思は司馬相如しばしょうじょ揚雄ようゆう班固はんこ張衡ちょうこうと歴代の偉大な文学者の賦を、『詩経』のいう「ものごとをありのままに描写する表現法」(引用はすべて当該書より。以下同じ)から逸脱していると批判し、自分は『詩経』のいう原義に立ち返って「三都の賦」を書いたと述べます。


 非常に挑戦的な左思の態度は、四六駢儷体しろくべんれいたいに代表される当時の華美な文学的風潮にも抵抗するものでした。異色のバックグラウンドを持つ左思の文壇での立ち位置を象徴するかのような宣言です。




●伊藤正文、一海知義訳『漢・魏・六朝詩集 中国古典文学大系第一六巻』(平凡社、一九七〇)


 左思は賦だけでなく詩にも優れた文人でした。その代表作である「詠史えいしの詩」が収録されています。


詠史えいし」とは「歴史上の事件や人物を詠じ、またそれに仮託しておのれの志をうたうもの」で、左思の「詠史の詩」は全部で八つの部分からなる長い作品です。


 左思はその第一部で「論文を書いては(前漢の文帝に若くして重用された賈誼かぎの)「過秦論かしんろん」ときそい 賦を作っては(前漢の武帝の側近となった司馬相如しばしょうじょの)「子虚しきょの賦」になぞらえ……孫権そんけんなにするものぞとの志湧く」という若き日の強烈な自負心と功名心を告白しますが、最後の第八部では「足りれば充分 余分は願わぬ」と自足の境地に到達します。


 強烈な自負心と功名心に始まり、自分ではどうしようもない不遇を嘆き恨み不満に思い、最後には足るを知る。左思の心境の変化が綴られた名作です。




●川合康三、富永一登、釜谷武志、和田英信、浅見洋二、緑川英樹訳注『文選 詩篇 全六巻』(岩波書店、二〇一八~二〇一九)


 左思の「詠史詩えいしし」をはじめ名作が収録されたアンソロジーである『文選ぶんせん』の詩篇が岩波書店から文庫で出版されました。


 それまでより圧倒的に手に取りやすくなった『文選』、ぜひ気軽に開いてみてください。




●中島千秋『新釈漢文大系79 文選(賦篇)上』(明治書院、一九七七)


●高橋忠彦『新釈漢文大系80 文選(賦篇)中』(明治書院、一九九四)


 左思の「三都の賦」のうち、「三都賦序」「蜀都賦」「呉都賦」が上巻に、「魏都賦」が中巻に収録されています。


『新釈漢文大系』は原文、書き下し文、通釈(≒翻訳)、語釈(語ひとつひとつの解釈)が掲載された本格的な本です。


 一字一句と格闘したい勇士はぜひ手に取ってみてください。




★栗山雅央「左思「三都賦」は何故洛陽の紙価を貴めたか」『中国文学論集 第三八号』(九州大学中国文学会、二〇〇九)


●栗山雅央「左思「三都賦」と西晉武帝司馬炎」『日本中國學會報 第六六集』(日本中国学会、二〇一四)


左思の「三都賦」の特徴と、なぜそのような特徴を持つ「三都賦」が評価されたのかを考察する論文です。


 作品そのものだけでなく、作品がつくられ受け入れられた背景にも興味を持ったらぜひ読んでみてください。




★印の論文はWeb上で無料で読むことができます。CiNiiやJ-STAGEで検索してみてください。

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