三の四 首魁の正体 〜検分〜

 が流れ落ちた。

 

 トリガーガンのトリガーから指を外す。

 第一汚水枡の底で滝の水流に震えていた固まりは、落ち着きを取り戻した。

 五十数センチの汚水枡の底は、肘まで突っ込まないと手では取れない。三百円のトングで取り出す。


 すでに見慣れた感のある灰色と黄土色の油脂の固まり。大きさは、幅四、五センチ、長さ十数センチほど。

 特筆すべきは、形状。

 第二汚水枡の手前に鎮座していた巨大な固まりは長方形だったが、こちらはかまぼこ型だ。

 排水管内部を象った固まりは、排水管上部を油脂が埋めていた証拠だろう。


 油脂は水に乗って排水管を流れていく。排水管内を流れるうちに固まってしまい、側面などに付着する。特に冬場などは温度が低く固まりやすい。


 煮豚など、冬場は冷蔵庫に入れなくともガス台の上に放置しておいた翌朝には最表面に真っ白な油脂の固まりができている。バラ肉だと厚さは一センチ以上もあって、キレイに取ってラードとして利用したりする。


 油脂分は洗剤だけではなかなか落ちないため、お湯で溶かしつつ洗うが、すすぎにて温度は下がり、排水管を流れるうちにまた下がって固まる。固形分としてぷかぷか流れていく分には良いが、流れながら固まれば、接している排水管内に付着する。


 油汚れ、特にラードやバターなどの動物性油脂分を指で触れば、ねっとりと引っ付き、指を擦り合わせても伸びるばかりで取れやしない。

 洗い流そうにも水では太刀打ちできず、洗剤も少量では泡立ちもしない。ぬるぬるといつまでも取れないから、ついにスポンジで洗剤を泡立て、皿洗いよりも力を入れて指先を擦りつけてから水で流して、やっと人心地といったところだ。


 実体験から分かる通り、白い油脂分は固まりやすい上ねっとりとして排水管に付着しやすい。

 排水管は油脂が付着するとデコボコになった分、水の接する面積は増えて、一段と油脂が付着しやすくなる。天ぷら油などの油分も何もなければ通り過ぎるのに、仲間である油脂分が通り道にあるものだから、くっつきたくなる。


 やがて排水管は狭くなって、円筒形のパイプの上部に空気の層がある状態で流れていたのが、一杯一杯で流れるようになる。

 水よりも軽い油脂分が常に天井部分に接するようになれば、接触面積が増えた分さらに固まりを形成していく。

 結果、かまぼこ形の油脂の固まりが出来上がり、排水管は一段と狭窄して、流れが滞り、滞ればさらに油脂は固まりやすくなる。


 流れ着いた固まりの形状から形成過程を考えてみたが、油脂類を流さないという当たり前のことくらいしか対策が思いつかないのだった。

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