三の二 狙うは大物 〜索敵〜
第一汚水枡の横穴から床下排水管にパイプクリーニングホースを入れると、狐色の水が泡立ちつつ流れ出した。
左手で持ったホースを小刻みに動かしてみる。
手元のホースを動かすことによりノズルの角度を変え、水の当たる位置を変える。
ノズルに開けられた孔は九十度刻みの四箇所で、固定していれば当たらない場所も出てくるが、動かすことで円筒形の排水管内部三百六十度を洗浄できるのだ。
排水管から流れ出た、高圧洗浄機の水圧で剥がし落とされた油汚れの混じった水は、しばらくすると透明になった。
ホースの先端にあるノズルの位置から手前側、高圧洗浄機の高圧ポンプで加圧された水が届く範囲の排水管がキレイになったということだろう。
まだ序盤、狐色に泡立つ水が透明に戻っただけだが。
黒蛇よ、期待を裏切らない働きだ。
褒めた相手はチロチロと柔らかな舌を出すどころか、素知らぬ顔のまま排水管内部を高圧の水で殴りつけている。
てらてら光る黒蛇をゆっくり奥へと繰り入れる。
再び水色が変わった。
先ほどと同じく狐色の水が泡立ちながら横穴から流れ落ちていく。今度は水色が透明に変わるまで待たずに手元のホースを細かに揺すりながら、更に奥へと入れる。
簡単に取れる汚れは後回しにし、詰まりの原因となった大物を探す。大将首を上げてから掃討戦に入るということだ。
と、音がくぐもって低くなり、横穴から流れ出る水量が減った。
トリガーガンは握ったまま、先ほどと同じ量の水を流しているのに出てこない。
何か、いる。
水の流れを妨げる何かが、繰り入れたホースの先端ノズルより手前側にある。
どの程度の大きさかは分からない。
円筒形の排水管の断面円のほとんど全部を埋めてしまって、ホースとの隙間から水がやっと流れ出られる状況なのか、円の下半分を土手のように塞いでいるために水が上流側に溜まってしまうのか。
ただ、ノズルが突き抜けた現状、ガチガチに固まったモノではなさそうだ。
水道業者の動画では、油脂がガチガチに固まって高圧洗浄機では太刀打ちできない事例も紹介されていた。
ガチガチの油を壊すためには、トーラーという道具を使う。
先端にブラシ(というかドリル)が付いた長いワイヤーで、排水管の中に入れていき、詰まり箇所に辿りついたら手元のハンドルを回して先端を回転させる。ドリルでガリガリ削っていくので、作業には練度も根気も時間も必要だ。
トーラー自体三万円から五万円ほどと安くないし、動画では詰まり箇所の特定に内視鏡カメラを用いていた。およそ素人が手出しできる類のものではない。
ついている。何度でも思う。
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