二の六 床下の捜索 〜悪寒〜
コンクリートの灰白色が広がる薄暗い空間に頭を突っ込み、ぐいと身を乗り出した。
流れる風は冷たくとも緩やかで、皮膚を切るような真冬の鋭利さを備えてはいなかった。
ただ、薄暗い。
台所の照明は四角い穴と人影を切り抜くだけで見通し悪く、静かに流れる風に乗って何かあるいは誰かが近付いて来たとしても。
おかしくはない。
ぼんやりとした恐怖が、気配に変わる。
見えもしない影と聞こえもしない音が、こらす目の向こう、そばだてる耳のそば、にじみ揺れる人影となり、カサリ鳴る黒虫となる。
静まれ。心臓。
懐中電灯を点ける。
コンクリートの基礎から床の裏側を照らす。
蜘蛛の巣も少ない綺麗な床下だ。
動くモノは不在。
床下で騒ぐのは、排水管中に残された空気だけだ。気を取り直して。
ライトの白丸が、黒い部材を拾う。一定間隔にいくつもある。
水平方向の木材である大引きを支える、樹脂製の床束だ。
運動ゲームのリンクフィット(仮)で跳ね飛ぶ衝撃も耐え忍ぶ苦労人に感謝する。
一番近い床束の向こう、赤と青の何本もの配管がある。
一本の赤い配管と繋がった部材の直径方向から複数の赤い配管が並んで出ている。青も同様。
色と本数から考えて、水とお湯の配管だろう。
給水管から止水栓を経て、お湯はさらに家の側面にある給湯器を介して、床下を這い、家中の設備に供給されている。
湯水の如く使う湯水は、蛇口に突然現れるのではない。
日ごろ意識しない設備が興味深いが、本命を探そう。
きょろり首とライトを動かす。
配管の奥に鈍い青色の管を見つけた。汚水枡の内側と同じ色。塩ビ管だ。
ラインを辿る。
左奥床下の天井、つまり一階の床から目測五十センチほど斜めに降りて直角に方向転換し、右手に二メートルほど伸びる。さらに九十度曲がって家の側面方向に二メートルほど続き、基礎の立ち上がりに開いた穴から外に出ている。
塩ビ管を支える部材は床から斜めに降りてきた地点を最高に、段々と短くなっていき、外に出る地点では基礎に接している。
水道の配管よりも太い径、塩ビという素材、徐々に低くなる構造、床から出て勝手口の横辺りに抜ける位置関係。
台所シンクからの排水管とみて間違いない。
床下に突っ込んだ逆向きの頭で考える。
この排水管はシンク下の床から床下に出ると、四十五度ほど曲がる。シンク下の蛇腹ホースを引き抜いても、お玉やスパチュラでは十分洗浄できない。
それに、汚泥が溜まりやすいのは二箇所ある曲がり角と、合計四メートルほどの傾斜の緩い部分だろう。
垂直に立つ汚水枡でさえ、一ヶ月ほどで汚泥の付着が確認された。
傾斜があるとはいえ、水平と余り変わらない排水管。汚れはいかほどか。
想像に悪寒がした。
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