二の五 起死回生の手段 〜余力〜
台所シンクを使う度に鳴る異音の原因は、シンクの下から第一汚水枡までの排水管にある。
屋内で音が聞こえるのだから当然と言えば当然の事実にようやく行き着いた。
排水管は閉鎖空間だ。
入口と出口はどちらも狭く、一箇所ずつ。
出口が詰まって入口から進めなくなる、汚泥枡が詰まったために台所シンクから一切流れていかなくなる事態も容易に起こる。
出口だけでなく、長い排水管内の一部でも詰まれば先に進めず、排水も排水に含まれる種々のゴミも溜まってしまう。
外からは見られず、特定できたとしても、詰まった箇所から直接詰まりを取り除く術もない。
やはり、プロフェッショナルを頼るしかないのか。
まだ、迷っていた。
同様の事態に陥る度に業者を呼ぶのも困りものだと。
汚水枡以降の洗浄が終わったことで、ある道具が使用可能となり、余裕もあった。
購入したものの汚水枡洗浄では出番がなかったラバーカップである。
ラバーカップは、詰まった管内に排水と逆向きの流れを作り出して、詰まりを解消する道具だ。
詰まった排水管の入口(トイレなら便器、シンクなら排水口)にカップ部分を密着させ、ゆっくりと押し出し、勢いよく引っ張る。
引っ掛かっていた固形物を手前に緩ませるイメージだ。奥に向けて詰まっているのだから、勢いよく押してはいけない。
汚水枡では構造上、ラバーカップを試せなかった。
汚水枡は天辺の口のほか、上流側と下流側の二箇所に横穴が開いている。抜け道がある場所では使えない。
そもそも、上部にあるフタの周囲に密着させて空気を送っても意味がない。ラバーカップは完全に水に浸った状態で使うものだ。
台所シンクから汚水枡の間、未洗浄のまま残された排水管が詰まった場合は、ラバーカップの登場機会、用途ど真ん中。
ゆえに。
現状、敵の攻撃は音のみ。
真夜中にも鳴る気味の悪い音だけである。
時限装置付の音は、完全に詰まるか、完全に詰まりが解消される時、鳴り止む。
敵、か。
敵の根城は排水管。
シンク下の蛇腹ホースの更に下、床下を這い、汚水枡に繋がる排水管だ。
内側を覗くことは不可能。
では、外側は。
排水管の外径、長さ。
外観すら知らない。
知らずに策を練られるか。
拙速を尊べ。
ここは台所。
床下に出入りする穴がある。
床下収納を開け、油や醤油のストックを出し、収納を持ち上げて外す。
ひんやりとした風が吹き上がる。
自分で降りたことはない。
数年に一度、シロアリ防除の業者さんに施工と点検をお願いしている。
ここから、見えるか。
風の通る薄暗い床下に頭を逆さに突っ込んで、ライトを点灯した。
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