二の四 真夜中の騒音 〜怪異〜
テレビが垂れ流す騒々しい嘲笑の対極にある音が、真夜中に鳴る。
静寂に包まれた台所に響く寸胴な音は、慣れてしまったと言うほど馴染んでもおらず、何より不吉な物音だった。
狭く細い管の中に取り残されたそれは、気圧か微かな風か、些細な変化にも敏感に動き出す。
外へ。
閉じ込められた場所から抜け出し、途上、仲間と出会い、一つになり、立ち止まり、また別れて。
いくつかの、無数と思えるほど散りばめられた障害、そこいら中こびり付いた油脂や洗剤や泥や食品滓の固まりや汚泥を避けて。
出口を求め、浮上する。
(ぽわっ)
暗がりからようやく解放されるそれは、軽く柔らかい面持ちで排水トラップを揺すり。
意志とかけ離れた音は、未だ苦しみを引き摺る逃亡者の息遣いで、眠る者の意識を刺激する。
んごご。
真夜中、その音で目覚めれば、探さざるを得ない。
排水管を洗浄する方法を。
だが、第一汚水枡から第三汚水枡まで洗浄は終わった。手の届く範囲は洗い尽くしたということで、手詰まり感は否めなかった。
別の方向、例えばシンク下。
開けてみるか。
台所シンクの下は飾りのベニア板で閉じられている。
四ヶ所のネジを外して、ベニア板を退ける。
右手には、表面に規則正しい凸凹のある銀色のパイプと蛇口。パイプは温水と冷水を供給する水道管だ。自在に曲がる形状から、フレキシブルホースなどと呼ばれるらしい。
そして、左手。
シンクのゴミ受け皿と排水トラップ、排水管がある。
ゴミ受け皿の下に排水トラップと排水管が接続しているようす、深さや位置関係が、上から見るより分かりやすい。
ゴミ受け皿の膨らみの下、排水トラップとの間には『取り付け確認済』のシールが貼ってあり、排水トラップの後方(奥)から伸びる管は、蛇腹の排水ホースにナット締め固定されている。
さらに蛇腹排水ホースは床下の排水管に突っ込まれ、黒い防水テープでグルグル巻きに固定されている。
この状況で最も動かしやすいのは、排水トラップと蛇腹ホースの間のナットだろう。しかし、蛇腹ホース程度ならば、パイプフニッシュ(仮)にて洗浄できているハズ。
何より、長さをキッチリ調整されて、垂直に立ったこのホースが詰まっている可能性は低いと思われた。
床下の排水管を覗きたい。汚泥の幾らかは浚えるかもしれない。
蛇腹ホースと床下の間の防水テープを外すか。
防水テープ程度ならホームセンターでも手に入るし、高価でもない。
逡巡。
処理に失敗すれば、水漏れ。
リスクが過る。
水漏れは、木造家屋の敵、後回しに、しよう。
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