一の七 得物の選定 〜準備〜
排水管の溢れを発見したその日、汚水枡に関連するウェブサイトを巡り、作戦を練った。
基本的には簡単な話。
詰まっているモノを取り除く。
実にシンプルだが、道具を揃える際にいくつか注意点がある。
一つ目は、サイズだ。
溢れた汚水枡の入口は直径八センチ。
かなり小さい。
汚水枡内部の汚れを掬い出す道具だから、入らなくては意味がないし、キチキチだと動かせないから多少の余裕が必要だ。
店内では物差しで測りながら選べないので、人差し指の先から八センチのところにマジックで印をつけ、買い物に出掛けた。
そして、注意すべき二つ目。
汚水枡の汚れは臭い。ものすごく臭い。
詰まっているのは、台所シンクからの排水に混じる食品カスや脂類の固まりや汚泥だ。
台所排水による汚泥は水分を含み、栄養たっぷり。種々の微生物により発酵している。
強烈にドブ臭い。
ゆえに、道具は使い捨てできるものが望ましい。
できるだけ百均で揃えて、見つからないものはホームセンターで購入した。
プラスチック製お玉、シリコン製スパチュラ、ロングタイプのビニール手袋、レインコート、フタ付プラスチック製バケツ、水切りネット、ビニール袋、トング。
以上は百均で購入(トングのみ三百円)し、ホームセンターでラバーカップを購入した。
スパチュラは、ネットでは上がっていなかったが、園芸支柱で汚水枡を突っついた感触から、こそげ落とす道具が必要になると感じた。
ネットに写真や絵が載っていた汚水枡はいずれも直径十数センチ以上はあるように見えた。
間口が広い汚水枡ならば、お玉の向きを変えて側壁を擦ることも可能だが、今回作業するのは直径八センチしかない。
しかも、深さは何センチか見えない現状、上下運動だけで使用できる道具があった方が良いとの判断だ。
また、汚泥の水切り用にはザルが紹介されていたが、ザルからゴミ袋に移す作業は汚水や汚泥が飛び散りやすい。汚泥を入れたまま捨てられる水切りネットを購入した。
道具の包装を解き、汚水枡のそばに並べる。
バケツに水切りネットをセット。ビニール袋は二重にして中に新聞を敷いたものを三セット準備。
それから、着替える。
上下とも汚れても良い服、捨てても惜しくない服を着用し、レインコートを着て、長ビニール手袋を嵌める。手袋は作業中にずり下がるから、肘の辺りを輪ゴムで止めておく。
長靴、マスクも装着。
作業後のために風呂を沸かして、準備は完了だ。
いや、最も大切な準備、心に気合いを入れて。
さぁ、行こう。
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