一の六 知識こそ力 〜検索〜

 あと数日で新年を迎えるその日の昼食の片付け時、シンクの排水は、まったく流れていかなかった。

 が、排水トラップを緩めれば流れていった。


 まだ、しばらく保つか。


 安堵したのも束の間、たった数時間後に発見してしまう。


 家の側面、勝手口のポーチの階段部分に、『おすい』と書かれた丸いフタが転がり、水がたぷんと揺れる縦穴が開いている。

 穴の周辺には黄土色の脂カスが点々と散らかり、水が流れ出た跡と臭い。

 流れた先の地面の砂利は濡れて、砂利を退かした土もじっとり濡れている。


 状況は明らかだった。


 排水が、ここから先へ流れていけず、圧力でフタを吹っ飛ばした。

 数々の予兆に背を向け続けた結果、ついにシンクの排水を流す管が完全に詰まったということだった。


 一方で、縦穴の正体など不明なことも多い。


 最も重要なのは、現状を回復させる手立てと費用だ。

 このままでは、台所シンクが使えない。


 大掃除作業を終わらせ、屋内に戻り、スマホを取り出す。

 まずは、『おすい』と書かれたフタについて調べる。


『排水管 おすい』と打ち込む。


汚水枡おすいます』と出てきた。結果をスクロールし、リンクをクリック、分かりやすそうな解説をいくつか読み込む。


『汚水ますとは、家の敷地内にある排水管の点検、清掃用設備で、道路にあるマンホールとほぼ同等の役割を持つ。

 具体的には、排水に含まれる固形物を分離し、水分のみを排水管に流して詰まりを予防している。』


 解説にある絵を見ると、縦穴の上方に上流排水管との接続を持ち、底部よりもいくらか上に下流排水管への接続を持つ構造になっている。

 重い固形物が底部に溜まり、上澄みのみ流れていくわけだ。


 今度は費用について調べる。

『汚水枡』で検索すると、ほとんどが水道業者のサイトにヒットする。

 あるサイトには、『高圧洗浄機での作業で四万円ほど、は六万円から八万円』と書かれていた。


 八万円。

 相談するつもりだった施工会社は年末年始の休みに入っている。

 時期的に連絡の取れる業者は限られているだろうし、緊急となれば出張料金はさらに上乗せと考えて間違いない。

 およそ十万円、痛すぎる予定外の出費。


 ……やるか。


 幸いにも、水道業者のサイトには、汚水枡の構造だけでなく、掃除方法まで記載されている。

 点検、清掃できるところは自分たちでやり、排水管内部など手に負えない部分は発注してね、ということだろう。


 

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