一の五 悲喜劇の開幕 〜必然〜
ピーピースルンF(仮)が効かなくなった。
排水時の異音は消えないままだ。
ネットで使用方法を検索した際に見た文言を思い出した。
『使い方によっては、逆に詰まることがあります』
薬剤の溶け残りが排水管内で固まり、詰まり解消どころか詰まりの一因となるというのだ。
使用頻度が上がれども効果が薄くなったのは、使用方法に問題があり、実際は逆効果になっていたのかもしれない。
疑わしきは使わず。
ピーピースルンF(仮)の使用を中止した。
月一回程度パイプフニッシュを使い、すでに慣れてきつつある異音を鳴らし、シンクを使い続けた。
そして、二〇二一年夏ごろ、排水の引きが悪くなった。
洗い物を流しているとき、シンクのゴミ受けの辺りに排水が溜まるのだ。
排水には油脂が含まれているから、浅型ゴミ受けのカバー裏には油脂が付いて、夕飯片付けの最後に洗うとはいうものの、気分の良いものではない。
パイプフニッシュの頻度を上げることにした。
ここで気になったのが、排水トラップだ。
築十数年経たシンク、排水トラップの取り外しが非常に固くなっていた。
取り外し時には、四十五度ほど回転させてから引き上げるのだが、この回転が重い。
外したトラップを観察すると、びろんびろんにパッキンが伸びている。
取り外せなくなると困るため、緩めたままにしておくことにした。
すると。
悩まされていた排水の引きの悪さが改善された。
異音も少なくなった。
もしや、伸びたパッキンが悪かったか。
ネットで検索すると同型の排水トラップ(防臭パイプ)が、二千円ほどで販売されていた。
パッキンのみで十分だったが、伸びているためサイズがよく分からない。
水道用パッキンで検索しても、直径十センチ程度、太さ一ミリ程度のパッキンまたはオーリングが見当たらなかったので諦め、防臭パイプを発注した。
台所シンクを使う度に鳴く排水管に、もうしばらくの辛抱だと言いきかせて、待つ。
防臭パイプは二週間ほどで届いた。つるりとしたパイプの溝にパッキンがきちんと嵌っている。
これなら。
古いパイプを取り外し、新品を付ける。両手で力を入れていたのが嘘のようにすんなりと回った。
洗い桶いっぱいの水を流す。
長らくの懸案から解放されるとの期待の中。
ごごごごご、んご、ごっごっごっごっ、ごっごっごっごっ。
ダイニングまで響く異音。
目論見は、外れた。
家の施工会社に相談して、水道業者を紹介してもらおう。
そう思いながら、忙しい師走を過ごし、年内最後の仕事を終えた翌日、悲劇、あるいは当然の帰結たる喜劇が起きる。
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