一の四 続かぬ平穏 〜異常〜
異音を異常として初めて認識したとき、ピーピースルンF(仮)はみごとに詰まりを解消してくれた。
同時洗浄すると効果的との記述を参考に、一ヶ月後には、台所シンクと風呂場、洗面台を同時に洗浄した。
詰まりなど、恐れるほどでもない。
さほどの手間も掛けずに解決してやった。
しかし、異音は一種の警報だった。異常を伝える音が失われれば、手入れの間隔も徐々に開く。
事態は静かに進み、一年ほど後に安息は破られる。
ごごごごご、んご、ごっごっごっごっ。
またか。
この時はまだ余裕があった。再びの異音にも対抗手段があったからだ。
ピーピースルンF(仮)を手に取る。
手慣れたもので、作業時間もさして掛からず、音は消えた。
ところが、今度は半年もしないうちに異音が戻ってきた。
ごごごごご、んご、ごっごっごっごっ。んごっごっ。
愕然とし、思考を巡らす。使い方が拙かった、と結論づけた。
薬剤は計量せずに目分量、お湯も指定量より多めに流していた。
そも指定量の薬剤は排水口の周囲に盛り上がる量で、お湯六百ミリリットルで溶かしきって流すのは難しかった。
薬剤を洗い桶などで溶かしてから流すという手もあるが、発泡系で刺激の強い薬剤を全量溶かして使用するのに抵抗があった。
洗い桶でかき混ぜて溶かす際に薬剤が跳ねたり、独特の臭気が上がってくるためだ。
ピーピースルンF(仮)は、同シリーズで医薬用外劇物指定されているK(仮)などと比べて作用が穏やかで安全とはいうものの、強めのアルカリ性薬品であり使用時は保護具着用のことと記載がある。
酸の方が怖いイメージがあるが、アルカリの方が浸透性が強く、皮膚や粘膜の深いところまでダメージを及ぼし、予後が悪い。
使用に際しては、保護メガネ、ゴム手袋、マスクを着用のこととボトルの注意事項にもある。が、メガネの上に着用できる保護メガネが家にはなく、可能な限り安全な方法を取っている。
少なくとも分量を守ろうと反省し、スケールで計量した。
薬剤を溶かすお湯の温度にも気を付けた。
そして、再び流す。が、やはり全量は流れない。お湯を足し足し、薬剤を流しきった頃には一リットル以上のお湯を流している。
使用法は変わらなかったが、放置時間を長くして翌朝、洗い桶で水を数回流す。
流れは元々それほど悪くなかった。
音は、
ごごごごご、んご、ごっごっごっごっ。んごっごっ。
変化なし。
ボトルの説明書きには、詰まり予防のためにも月二回程度の使用をお勧めとある。
以降、数週間おきから一ヶ月おきになり、三ヶ月おきになるが、ピーピースルンF(仮)を使用した。
三本以上消費しているはずだから、少なくとも十二回は使用している。
それでも音はなくならず、今度は別の事態を疑うことになる。
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