勇気の髪


それからは体育館に移動し入学式をする

母さんも式にだけ覗きに来て終わったらすぐ帰っていった

式では校長の話が長いくらいにしか思っていなかったけど

隣の椅子にはあの時の子が座っているという事実にまた胸が踊っていた


教室に戻りまた奥村先生の話を聞く


「入学式ご苦労だったな

これからの高校生活、勉強、スポーツに励むもよし

バイトで稼いで遊ぶのもよし、

義務教育を終えた貴様らには自立を学んでいただく場がこの高校生活というものだ

様々な困難や苦労があるだろう

しかしその先にあるものは何か……

それは青春だ!

貴様らはこの高校生活でどれだけ青春をするかで今後の進路が決まってくるだろう

だからこそこの3年間、笑って過ごそうじゃないか

しかし、最後に伝えておこう

最後に笑うのは……この私だ!

以上」


先生の言葉で少しざわつくが

最後は俺にもちょっと理解が出来なかった

なんだったんだ?


こうして入学式が終わる

チャイムとともに先生が号令をする


「それでは貴様らさようなら」


【さようなら!】


号令が終わると


「ふーまー!ねえねえふーま!」


とひまわりの声がする

またか…やれやれ


「私の前の席に座ってた手島しずく【テジマシズク】ちゃん!

すっかり仲良くなったからふーまにも紹介するね!」


ひまわりが手を引いて連れてきたのは少し小柄な女の子だった

俺は雪乃とひまわり以外の女の子と話す機会なんてあんまりなかったから少し固く表情を作る


「よ、よろしく」


「よろしく」


手島さんはニコッとして応えてくれた

意外といい人なのかもしれない


「お?しずく〜友達出来たんだー

だれだれー?」


手島さんの肩を組みながらニヤニヤしているもう1人の女の子が来る


「うん、ひまわりちゃんとー

………誰だっけ?」


「光井風馬だよ!」


「あ、そう、光井」


手島とそんなやり取りをする


「おーひまわりに光井ねーよろしくね!

あたしは湯山雛【ユヤマヒナ】

しずくのやつ昔から人見知りでさ〜

こんな初日から友達作るなんてなかったからね」


湯山か〜この人は何となくノリがよさそうだなー



※会話が混雑するのでここからはセリフの上に名前を書きます



ひまわり

「じゃあ今日はみんなでマックでも食べよーよー」


「お、いいねー!初日の仲ということで乾杯すっかー!」


しずく

「こらこら、居酒屋みたいなノリで言わない」


ひまわり

「北谷くんも誘おうかなーいいよね?ふーま」


3人の会話に俺は加わる


「おお、いいんじゃん?」


俺がそう答える

そうは言いながらも視界にはあの時の綺麗な髪の女の子が入っている


「よーし!じゃあ決まりー!」


ひまわりが両手を高く上げる



【ガタン!】


俺の後ろの席の子は椅子をしまってカバンを持つ


「……」


帰るのか………

その子はそのまま教室を出ていく

俺は少し迷った

このままみんなとマックに行くか

今ここで待たせてあの子を追いかけるか

……俺はこのチャンスを逃す訳にはいかなかった


中学の時はまた明日があると思っていたから

彼女が転校して俺は後悔していた

ならば今しかない……

今日ここで会えたのも何かの縁だろ


「ひまわりごめん、先に行ってて」


「え?」


俺はカバンを持って教室を出た

そして…懐かしのあの子の背中をまた追いかける



「あの!」


俺が声をかけると

その子は止まってくれる

そして綺麗な髪をふわっと揺らしながらその子は振り返る

振り返るとさっきまでちらっとしか見えてなかった顔も初めてちゃんと見た

間違いなくあの子だとまた再認識した


「………」


何も言わずそのまま立ち止まる

だからこそ俺は今までの思いを伝えるように言った


「俺の事……覚えてますか…?」


覚えてなかったらそれでいい

また1から始まりでもいいんだ

この間が余計に緊張感を増すけど

今日会えたことは本当に嬉しいんだ


「覚えてるよ」


女の子は髪を耳に掛けながら、少し微笑んで俺に言う


「……え」


「……あの時はありがとう

私、なんて声掛けたらいいかわかんなくて」


「……いや、全然」


俺も今なんて声をかけたらいいかわかんない


「光井風馬君…だっけ」


「…うん」


「同じクラスで…席もすぐ近くでよかった

これからもよろしくね」


「こ、こちらこそ!よろしく!」


「じゃあまた明日」


「うん、じゃあね」


その子は階段を降りていった

……………


イヤッホーー!!!!

なんだこの最高の気分は!

もうなんて言ったらいいかわからん!!!

あんな可愛い人見たことねーぞおい!

しかも俺の事覚えててくれた?

ありがとうとか感謝までされちゃったしよ!

あーーー!!明日からどうしよー!

なんの話しようかなーー!!

俺はうきうきの気分で教室に戻る


すると

みんなは居なくなっていた

は?あいつら待っててくれなかったの?

いや、違うか、先に行っててって言ったの俺だ

仕方ねー二度手間だけど

俺はマックに向かおうとする


昇降口に行くと


「あれ?」


ひまわりが居た


「お、ふーま!なんかあったの?」


「いや!別に!なんとねーけど!」


俺はあからさまな嘘をつく


「あれ?みんなは?」


「先にマックに行ったよ北谷くんも呼んどいた」


「あーそっか」


ひまわりだけが待っててくれたんだな

まああの中じゃ1番仲良いからな

ひまわりとマックに向かう


「みんなと仲良くなれてよかったね」


ひまわりがそんなこと言う

そうだけど違うよな…


「まあ俺じゃなくてひまわりのおかげだろ?

俺一人じゃ多分あんな人数話しかけられないから」


「そう?私はみんなと仲良くなりたいだけだからねー」


ひまわりは中学の頃からクラスみんなと話していた気がするなー

だから目立つしモテるんだろうけど


マックに着くと


「おーい、こっちこっちー!」


湯山が俺らに手を振る


「おー!ちょっと待っててー!」


俺とひまわりは注文をして後から持ってきてもらうことにする


「お待たせー」


俺とひまわりが席につこうとすると


「あー!だから!離れてってば!」


「ん?」


とんでもない光景が見える


「あら〜ん??なんでー?あたしとポテトゲーム出来ないの?ほら、ん」


北谷の隣に座る湯山が北谷に抱きつきながらポテトを咥えて北谷を見つめていた

な、何してんだ!?

もうそんな仲なのか!?


「雛ー?」


そんな湯山を見て手島が呼ぶ


「ん?」


【ガツーーン!!!】


手島は思い切り湯山の頭をげんこつした


「いい加減にしなさい!」


「はい、すみませんでした」


な、なんだったんだ?

北谷の方を見てみると

石のように固まっていた


「何してたのー?」


ひまわりが2人に聞くと


「ああー気にしないで、雛ったら中学の時からこうやって女の子慣れしてない男の子にちょっかいかけて反応楽しんで遊んだりしてるの」


な、なんて恐ろしい遊びだ!!


「……?」


「ん??」


俺は湯山と目が合う

な、何かされんのか!?


「……」ニコッ


ウィンクをするだけだった

よ、よくわからんけど北谷も手島も大変そうだな


しばらくは雑談をする


ひまわり

「へぇーじゃあ雛ちゃんとしずくちゃんは中学の頃から仲良いんだ!」


「そうそう、なんかしずくもからかいがいがあるから遊んでたら仲良くなっちゃったよ」


しずく

「ちょっとー!遊びって何!?」


2人が仲良いのはわかった


「3人は同じ中学なんだっけ?」


ひまわり

「そうだよーでも北谷くんとはほとんど初対面かな?」


北谷

「う、うん!」


しずく

「へぇーなんか仲良さそうだからそんなふうに見えなかったなー」


ひまわり

「そう?」


「んでー?光井とひまわりが幼なじみなの?

すっごいラッキーだね光井!こんな可愛い幼なじみと一緒に居るのって女の子に対するハードルとか上がらない?」


風馬

「そ、そんなことねえけどな!」


俺は今日会った女の子を思い出す

水瀬って名前だったよな?

あーまた明日も会いたいなー

俺は少し顔に出ていたのか


「何こいつの顔、スケベなの?」


風馬

「はっ倒すぞお前!」


こういう失礼なことを平気で言うやつには俺も絡みやすいんだよな


しずく

「でも幼なじみっていい関係だよね!

今でも仲がいいのもすごいと思うし」


まぁ確かにな

こういう風にひまわりと一緒にいるのも……

……まあひまわりの家系的にも俺らの家で何かすることの方が多かったしな

うちの家族もひまわりを受け入れて過ぎてることは置いといて


ひまわりの父親は医者でほとんど家に帰れないくらい忙しい

母親はモデルなどのメイクを担当している人で帰りも遅いらしい

そんな家計に生まれたひまわりは両親が忙しい代わりに隣の俺の家でひまわりの誕生日パーティーなどをして楽しく過ごしていたということ

まあひまわりの両親も人の親だからそういうパーティーをした日にはお礼の電話を丁寧に入れてくれたりお菓子とか持ってきてくれるから憎めないんだけどな


ひまわりは俺にとっては確かに鬱陶しいと感じることもあるけど

こういう事情があるから見捨てれないのも事実なんだよなー


「私ね、両親が仕事で忙しいからふーまとふーまの家族と一緒に過ごしてきたけどね

楽しいんだよね!だからこれからも仲良くするし

家族みたいなもんだから大事にしたいなーって思ってるの」


………

ひまわりが俺に対して言った言葉だった


「だ、大胆な発言だね」


手島も驚いている


「光井、惚れた?」


風馬

「鬱陶しいなお前!」


「ところでひまわり、家族みたいなもんとはこれから結婚するということで?」


風馬

「いらんこと聞くな!!」


とまあこんな感じで仲良く?なれたと思う

電車に乗って帰る

駅を降りた帰り道のこと


「はあ〜今日は楽しかったね!」


とひまわりがいつもの調子で言う


「そうだな」


俺も楽しかったと思う

北谷とはあんまり話せなかったけどきっと良い奴に違いない

なんかこう、似たようなものを感じる

手島と湯山ともなんだかんだで仲良くやっていけると思うしな


「あ、そうだ、今日もママとパパいないからふーまの家にお邪魔するね」


「おう、わかった」


ひまわりと過ごすことが日常になってるのは言うまでもない

ただ飯食ったら自分の家にちゃんと帰るからなあいつは

どこかの童貞が想像するようなお風呂でトラブルやら一緒に寝るやらなんてしたことない

まあ俺も童貞なんだけどそういうのはないよって話


家に帰る


「ただいまー!」


ひまわりはまた大きな声で言う


「お前ん家か!」


まあいつもの事なんだけどな


「あらーひまちゃんおかえり、

あれ?風馬の声が聞こえないなー」


「はいはい、ただいま」


「おかえり」


母さんともいつものやり取りをする


「あ、今日もひまわりの両親いないらしいから

うちで食べるんだけどいいよね?」


「うん!大歓迎よ!」


「ありがとー!ふーママ!」


入学式だと学校終わるのも早いし雪乃もまだ帰ってきてない


「とりあえず上がってゲームしようぜ」


「あーマリカやりたい!」


と俺とひまわりは家に上がる


「ちょっとあんたたち、手洗ってからゲームしなさいね?」


「「はーい」」


ひまわりがさっき言った家族みたいなもんってのも何となくわかる

こんな風に俺の母さんもひまわりにも手洗いなさいとかこぼしたら拭きなさいとか色々言うからな


しばらくはゲームをして時間を過ごす

しばらくすると雪乃も帰ってきて一緒にゲームをする

晩御飯を作る母さんがキッチンから顔を覗かせこう言う


「そういえば風馬友達とか出来たー?」


「小学生じゃないんだからいいだろ別に!」


「良くないよーひまちゃんは人付き合いとか好きそうだからあんまり心配してないけどね

風馬の場合はどうなのかなー?って」


そりゃまあできてないこともないしな


「今日はみんなでマック行ったもんなひまわり」


俺はひまわりに話を預けた


「うん!」


ひまわりもそれに返事をする


「へぇー!すごいじゃん!

でもひまちゃんが作った友達と一緒にとかじゃないよね?」


【ギクッ!!】


図星だ……


「いや、ふーママ、今日はふーまから話しかけてたんだよ!

すごい真剣そうな顔してね」


「………」


俺はあの場面を思い出す

水瀬さんに声をかけた時のことを言ってるのか?

だとしたらなんでそれを知ってんだ?

多分他の人には見られてなかった気がする

見られてないなんて保証はないけど


「そうなのー!?珍しいー!

なら本当によかった!お母さんは嬉しいよ」


そう言ってまた母さんは料理をする


「風馬?なんで走ってないの?

手動かしなよ」


ボタンを押してなかったことを雪乃に知らされる

動揺しすぎた

なんでひまわりは知ってたんだろ?

その答えは聞けないままでいるけど

どういうつもりかはわからない




【おまけ】

〜マックにて〜


ひまわり

「北谷くん!ピクルス食べれる?」


北谷

「僕、ピクルス苦手なんだよね」


ひまわり

「じゃあちょうだい!」


風馬

「お前が食うのかよ!」

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