偶然と懐かしい髪

なびく髪



そんなこともあったなー

あれが多分唯一俺から話しかけようと思った人だった

今はどこで何しているのかはわからない

でも確かに俺は心のどこかであの子がまた中庭を通って来そうで毎回中庭にいたんだよなー

まあ途中ひまわりにバレてずっとそこには居られなかったんだけどな


もう二度と会うことはないけどもし出来るのならまたあのサラサラな髪を揺らしながら歩いてくるところを見てみたいもんだな

話しかけられるかは別として


電車で10分

この満員電車地獄を抜け出して駅から徒歩10分

俺らの学校


宿木高校【ヤドリギコウコウ】が見えた


「わーーやっぱ高校って広いね!」


「そりゃ中学に比べるとな」


植物が沢山ありそうな名前だが実際はそんなことは無い

ただ校門を入って正面には花がいっぱい咲いている

赤白黄色に咲いているチューリップやパンジーなど

様々な花の種類が並んでいる

すげーなーこんなに綺麗に咲くなんてことあんだなー


花は少し髪の毛と似ている気がする

髪の毛も頭皮を健康的に柔らかくすれば健康的な髪の毛も生えてくる

花も土が柔らかくないと綺麗な花は咲いてこないしな

だから花を見るのは嫌いじゃない

俺が花を見ていると

ふっと1人の女の子が花に向かって走っているのが見えた

何してんだろ?


「ふーま?何ぼーっとしてんの?

早くクラス表見に行こ!」


ひまわりが顔を覗かせてくる

するとひまわりは俺の手を掴み


「ほら、行くよ?」


優しく俺の手を握るひまわり

柔らかくて暖かいひまわりの手の温もりを感じる

お前ってやつはなんでいつもこうなんだ


クラス表を見る

………あった

俺は1年B組だった


「ふーま!私B組だったよ!」


げっ!!


「ほ、ほーんそうか…」


よりによってひまわりと同じクラスかよ!!

今から先生に言ってC組に変えることって出来ねーのかな?


「ふーまは?」


「……B組だよ」


「えー!!同じクラスじゃーん!!

やったー!」


ひまわりはえらく喜んでる


「文化祭もー体育祭もー全部一緒だね」


なんでいつも一緒にいるのにこんなに嬉しそうなんだ?

俺にはなかなか理解出来なかった


教室に行く

俺は自分の名前が書かれた机に座る

はあ、やっと落ち着けるなー

と思った矢先


「ふーま、先生来るまで話そう」


とひまわりが俺の元に駆け寄ってくる

んまー俺も退屈してるからいいんだけど

こんなに俺と一緒に居てどうすんだ?

ひまわりと一緒に居て俺はどう思うか

それはもちろん


迷惑!!!


なんでただでさえいい思い出がないのにこいつと一緒に居なきゃいけねーんだよー!!

どんな理由があろうと俺はこいつと一緒に居ても楽しくない!

……楽しくないわけじゃないな

そんなこと言ったらひまわりが悲しむ顔が嫌でも思い浮かぶ

……まあいいや、考えても仕方ない


しばらくひまわりと話している

よくもまあこんなにも話す内容があるよな

元々コミュニケーション能力ってやつは高い方なんだろうけど

俺の適当な相槌でも話の内容が止まらないなんてことあるか??

すげーぞ逆に


すると目の前によく知った顔のやつが通る

俺は思わず


「……あ」


と声が思わず漏れる

それに反応したひまわりが後ろを振り向く


「あれー!?北谷くん!?」


とひまわりが声をかけた

北谷君とは

俺らと同じ中学のやつだ


北谷緑(キタヤミドリ)


一見女の子みたいな名前をしているが実際は男だ

俺は話したことないけど3年間も通ってれば名前も顔も自然と覚えてくるしな

確か北谷も俺と同じく孤独族で過ごしてたと思う

あの時仲良くなってれば今でも仲良くなれたはずなんだけどな


「北谷くんも話そーよ!」


と、いきなりひまわりは北谷に話しかける

ば、ばか!お前俺が北谷と話したことないの知らねーで言ってんのか!?

そんな俺の心の叫びも虚しく


「ぼ、僕も!?いいの!?」


と北谷は緊張した様子で俺らに近づく


「うん!みんなで居た方が楽しいでしょ?」


ひまわりは北谷の両腕を引っ張る

フレンドリーなひまわりの性格は北谷の顔を赤くさせた


そりゃあひまわりは見た目は可愛いと思う

性格もまあ悪くないし

誰がどう見ても悪い印象はないだろうし

人付き合いが得意だから友達も多い

こういうところからひまわりは中学時代15人もの男たちに告白され


それを断り続けている

なんで断り続けているかはわからない

でもあいつはモテる要素がありまくるわけだ

高校生になってもそれは変わらないだろうな


ひまわりと北谷と話す

北谷とはほぼ話したことなかったけど

ひまわりのおかげで少し喋ることが出来た

話してみると意外と悪いやつでもないのかもな


「ちょっと、すいません」


ひまわりの後ろから声を掛ける1人の女子生徒が通り過ぎる


「あ、ごめんなさい!邪魔だったね」


ひまわりはすぐに謝ると


「大丈夫」


と言って俺の席の後ろに座った

ふわっと揺れる髪

そして懐かしい香りが俺の頭の中を掛け巡らせる

この匂い……

あの時、中庭で通り過ぎた女の子の匂いにそっくりだ……


その柔らかく髪の毛1本1本がなびくような綺麗な髪はまさにあの時の……

もしかして………


俺はその可能性を感じながらも後ろを向けないままでいた

振り向いてしまうと話さなきゃいけなくなるから

気のせいであって欲しいという気持ちもあるのは

もし次会ったら俺がどうなってしまうのか何となく想像が付いてしまう



俺はその子に恋をしてしまうだろう

いつも陰で見ていただけだけど

明日も会いたいとかその次の日も会いたいなんて思うのは

誰がどう考えても確実に恋だ

だから少し怖いという感情もある

俺は振り向かない…気のせいであって欲しい


【バァン!!】


「席につけ」


教室のドアが勢いよく開けられて

先生らしき人が入ってくる

すごく美人な先生だな

しかし今の口調からもわかる通り目つきは少し怖い


「みんな、入学おめでとう

今日からこのクラスを担当する

奥村蓮花【オクムラレンカ】だ

主に英語を受け持っている」


かなり美人なので少しクラスもざわついている


「はーい!!質問でーす!」


クラスの男子の1人が立ち上がり意気揚々と手を上げる


「お前は友田龍之介【トモダリュウノスケ】だな?

なんだ?」


奥村先生が聞き返すと


「彼氏は!彼氏は居ますか!?」


【シュパン!!!】


「ひぃぃー!!」


友田という男子の机に果物ナイフが突き刺さる


「余計なことを口走るな

私は生徒相手だとしても

いつでも戦闘の準備はできているからな」


いや、過去に何してた人なんだよ!?

友田は静かに席に座る


「えー今から出席確認をする

名前を呼ばれた人は返事をするように」


奥村先生は一人一人生徒を呼んでいく


「戸塚ひまわり」


「いえ〜〜す!」


な、なんだその返事!

ひまわりがまたわけのわからない返事をした

周りがくすくす笑ってくれたからいいものの

入学式でみんな緊張してる時にその返事はないだろ!


「光井風馬」


俺の名前が呼ばれる


「はい!」


俺は返事をする


「水瀬遥香」【ミナセハルカ】


「………え」


俺は聞き覚えのある名前に反応する


「はい」


後ろの席の子が返事をする

遥香……

中学の時、確か花瓶を落とした2人の女子生徒が言っていた


『遥香おっそー』


……いや、また気のせいって事でいいだろう


「じゃあ次にプリントを配る、足りなくなったら言ってくれ」


先生がプリントを配る

俺は前の席の人からプリントを受け取る

俺は後ろの席の子にプリントを渡す

その際に顔を見た


「………!」


【ドキッ!!】


紛れもない

目はバッチリ合ってる

あの頃よりも髪が長くなってる

だからその綺麗な髪はより美しい

俺があの時、恋をした

あの綺麗な髪の女の子だ


俺はすぐに目を逸らす

う、嘘だろ……なんでここにいるんだ!?

こんな偶然あるか!?

俺は前の席にいるのにあのいい香りが俺の脳裏を刺激する

あああああ!あの頃の胸の高鳴りが蘇る!


またプリントが配られる

そしてまた目が合ってすぐに逸らす

くそ……やっぱり可愛い

いや、今よりも少し大人っぽくなってて尚更可愛い!

あんまりジロジロ見てると嫌われてしまうので少し控える


はあ、呼吸を整えよう

このドキドキが後ろの席に聞こえないように

今は冷静になろう

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