あの子の髪


中学1年の頃


中学の入学式も確か今日みたいに俺ん家でひまわりが朝飯を食っていた

小学校の頃はただの幼なじみだと思って何も考えてなかった

中学も少し家から離れていたため本来は自転車通学のところを俺の母親の車でひまわりと一緒に初登校したのは覚えてる

俺とひまわりは別のクラスになってしまったが

それもそれで災難だったな

授業が終わると必ず


「ふーまー!一緒に帰ろー!」


ひまわりが俺の教室に入って大声で言う

中学生ってやつは女子と一緒に帰るってだけでもかなりハードルが高いってこと知ってるか?

だからこそこいつと帰ることは俺にとってマイナスなんだ!


「い、いや、いいよ別に

俺友達と帰るからさ」


渋々断る

しかしそんな言葉が通じる相手じゃなかった


「えー!!ふーまの友達!?どこどこ?

ふーまって私以外友達居たの!?

教えて!私も友達になりたい!」


「……あ、あのなー!!そういうのもやめてくれよ!」


「なんでー?ふーまの友達は私の友達じゃん」


「……先に帰ってくれ」


俺は中学の頃友達なんてものは居なかった

そう、小学校の頃はひまわりとずっと一緒に居た

けど中学になるとひまわりと一緒に居るっていう印象が強いのか

俺はみんなと距離を置かれるようになった

多分みんなそんなことないのかもしれない


けど…俺はそう思ってる

それからというもののひまわりはしつこく俺の所に来るけど

ほとんど冷たくあしらっていた

ったく……いつまでも子供の頃みたいな絡み方は出来ねーぞ

そしてここまで一緒にいると当然、こんな噂も出てくる


「あー!またイチャイチャしてるー!」


「付き合ってんでしょ?いいねー」


俺とひまわりを見かけた女子が俺らに言った言葉だ

付き合ってる…?イチャイチャしてる…?

俺にはそんな気はサラサラない

なんでひまわりと付き合ってる噂をされなきゃいけねーんだよ

そう思っていてもひまわりは頑固だった


「ふーま!今日も帰ろーね!」


俺はそれが耐えられなかった


「お前さ、俺らが付き合ってる噂が立ってるの知ってるか?」


「え?知ってるけどなんで?」


「なんでじゃねー!なんで平気なんだよ!」


「だって、噂は噂だし、幼なじみって付き合ってる以上の関係じゃない?」



「呑気か!お前は俺と付き合ってる噂されて嫌じゃないのかよ!?」


「嫌じゃないよ?」


「………」


ひまわりは俺の目を真っ直ぐ見て言う

な、なんだよその顔は…


「一緒に帰ろ?」


「……おう」


こんな感じで俺はいつも言いくるめられている


ただ俺にも唯一、ひまわり以外の人と話したことはある

その人に話しかけようと思ったところに

ひまわりが空気を読まずに俺に絡んできたから……


それは中学の入学式が終わって1ヶ月くらいのこと

俺は趣味で髪の毛のケアやセットなどの本を買い漁っていた

それを内緒で学校に持っていき放課後になるとこっそり中庭でその本を読んでいた

すぐに自転車で帰れるようにヘルメットは被ってる状態だ

まあ中庭にいる理由としてはひまわりに見つからないようにってのが1番だけどな

なるほど……髪の毛はタンパク質で出来ているのか…

こういう風にセットすれば可愛くなるんだなー

今度雪乃の髪を借りてやってみようかな?

なんて考えてる時だった

中庭で座ってる俺の前を女子生徒がふわっと通り過ぎる


中庭で座ってる俺の前を女子生徒がふわっと通り過ぎる

その時に彼女の髪から、ほんのりといい香りがした

後ろ姿しか見えなかったけど

短めの彼女の髪が歩く度に軟らかく揺れる

きっと触るとサラサラしてツルツルしてるんだろうな

初めは何となく見てるだけだった


その次の日


中庭を通る彼女の顔を見てみた

パッと目が合う

……かわいいな

すぐに目を逸らしてしまったけど見えたのは髪を耳に掛ける仕草をしてまたゆらゆらと髪を揺らしながら歩いているところだった

なんだろう……なんでこんなに気持ちが高ぶるんだろ……


また次の日も

そのまた次の日も

本を読むふりをして彼女を見ていた


そして次の日

俺は隣のクラスで彼女を見つけた

……同じ学年だったんだ

話しかけたい…

今話しかけないと後悔する……

俺は休み時間、意を決して彼女の背中を追いかけ


「あ、あの!!」


声をかけた

が、しかし


「ふーまーー!!」


「え?」


話しかけたつもりだったが


【どーーん!!】


横からひまわりが俺に突撃してきた


「グベー!!」


「ふーま!昨日のテレビ面白かったね!」


「……」


「あれ?聞いてるー?おーい?」


「ああああああーー!!!!」


俺は叫びながらひまわりを突き放す


「お前はなんでいつもいつもいつも俺のところに来るんだよ!!

テレビの話なんて俺じゃなくてもいいだろ!」


「まあまあ怒ると血圧上がって死に至るよ?」


「おめーが死に至らせてんだよ!!」


最悪だった……

ひまわりのせいであの子に話しかけられなかった


でもまだチャンスはある

そうだ、また中庭に行けば彼女に会えるぞ

放課後、また俺は中庭に行く

もはや本なんて持ってない

よし、ここで待とう

俺はまたヘルメットを被り彼女が来るのを待つ

ひまわりに見つからなければそれでいい!


早く来てくれ……

俺が彼女を待っていると


「あれー?遥香おっそー

まだ来ないのかな?」


上から声がした

上を見ると窓を覗かせる2人の女子生徒が見えた

なんだろ?

俺は気にしながらも彼女を待つ


すると

あ…来た……え?


確かに見間違いじゃない

彼女は髪がびしょびしょに濡れていた

……どういうことだ?

俺は見るのが怖くなった

何があったのかはわからない

でもいつもの彼女じゃないのは確かだった

1歩ずつ近づいていく


「よし、今だ!」


また上から声が聞こえる


「………!?」


俺は反射的に体が動いた

とんでもない物が上から落ちてくるのを確認し

彼女の元へ走り


【ガバッ…】


抱きしめるような形で俺は彼女にくっつく


そして


【パリーン!!!】


上にいた女子生徒が落とした花瓶が

俺の被ってたヘルメットに直撃した


「………」


俺はあまりにも衝撃的すぎて言葉を失った

俺が上を見た時には2人の女子生徒は居なくなっていた

あの2人……意図的に花瓶を落としたのか…

にしてもやっていい事と悪いことがあるだろ……


………て!!俺はこんなことしてる場合じゃなかった!!

抱きついてしまった彼女からとっさに離れる


「ごごご、ごめんなさい!

あ、あの!」


「………」


やはり髪がびしょびしょに濡れている

何があったんだろ?


「け、怪我は??」


俺がそう聞くと彼女は濡れた髪を耳にかけて


「……大丈夫」


と答えて歩いて行ってしまった

彼女の顔はどこか悲しそうな顔をしている

どうする…追いかける?

いや、また明日にしよう

また明日ここで待ってればきっと来てくれる


そして次の日

その次の日も彼女は来なかった

噂によると隣のクラスから一人転校してしまった生徒がいるらしい

恐らくそれがあの綺麗な髪の彼女だ

そんなのって……

それでもあいつはお構い無しだった


「ふーまー!帰るよー!」


「………」


あの時ひまわりが邪魔をしてこなかったら

俺はあの子と話せたかもしれないのに

何も知らずになんて呑気なやつなんだ……


「お前もう1人で帰れよ!うぜーな!」


強く当たってしまったことは申し訳ない

でもあの時……お前が話しかけてこなければ…


「……ごめんね、帰るね」


「……あ」


ひまわりは悲しそうな顔を浮かべて帰ってしまう

それ以来もうこんな強く当たったりはしてないけど

ちょっと可哀想なことをしたなと反省してる

それにしても

いまだに花瓶を落とした生徒が誰だったのか

彼女の髪をびしょびしょにしたのは誰なのかはわからない

だけど俺のこの気持ちはどこで処理をしたらいいのかわからなかった




【おまけ】


〜風馬、ひまわりの中学時代〜



ひまわり

「ふーま?ちゃんと自転車乗る時ヘルメット被らないとダメだよ?」



風馬

(あの時ばかりはひまわりの、忠告聞いといてよかったな……)

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