訓練
カン、カンと木と木がぶつかる乾いた音が響き、数合の打ち合いの後に僕の剣は弾き飛ばされた。
これで通算15回目。隙のない夏ノ宮さんの槍術の前に、僕は未だ攻略の糸口を見出せずにいた。
「ゼェ…ゼェ…ハァ…ハァ…」
「一回落ち着け、旗坊。その左手に持ってる大盾の使い方を覚えるのが先だ。槍兵相手にむやみやたらに切りかかっても、悪戯にリスポン回数を増やすだけだ!」
盾を使えと言われても、防御以外にどうやって使えばいいのか見当もつかない。盾受けからのカウンターも試しては見たけど、あっさり盾を弾かれて焦って出した大剣をはたき落とされる結果で終わった。
「いいか?大盾の強みはその頑丈さだ。馬鹿正直に真っ直ぐに立てても、片手剣くらいなら簡単に防いでくれる。傾斜装甲…つってもわかるかは知らんが、とにかく刃を弾くか滑らせるか、その2点を意識しろ。さぁ、息を整えてかかって来い!」
「…!はい!」
深呼吸と共に小休止。夏ノ宮さんの助言を反芻する。
たしかに盾をただただ板として使うのは勿体無い。上手いことタイミングを合わせれば攻撃を弾けるし、僕の大盾なら物理エネルギーに任せて相手を吹っ飛ばすこともできる。
そして、槍の弱点は間合いの長さ。懐に入り込めばナイフ術の達人でもない限りは、僕みたいな素人でもなんとか料理はできるかもしれない。
そして、これを踏まえて僕が取るべき戦法は…
「おぉぉぉぉぉりゃぁ!」
「うっお、そう来るか!」
大盾の下側を地面にどっしりと構えて、訓練場の石床に対し75度くらいの角度で固定。大剣は一旦鞘に収め、多少の負傷を覚悟で真正面から突撃する。
当然、飛び出している頭を槍が穿とうとするが、咄嗟に盾の内側に引っ込め気合いでカバー。槍の間合いの内側へ入り、突撃の勢いのまま真っ正面から激突。
「あぁクソ、旗坊お前本当に素人か!?普通は槍の穂先に突撃するなんて少しは迷うもんだがなぁ!?」
「生憎と、刃物を向けられるのには人生経験上慣れておりまして!」
「どんな人生だよこの15歳がってあだぁ!」
突撃バッシュの質量エネルギーに正面から当てられた夏ノ宮さんが悲鳴をあげてよろめくのを見計らって、背中の鞘から大剣を抜く。
盾を投げ捨て、空いた両手で大剣を握り、隙を逃さない様に右足で地面を蹴る。
「逃がすかぁ!」
右後ろに構えた大剣を右下から袈裟斬りに振り抜こうと腕に力を込め…
「及第点以上だ、旗坊…いや、旗野。だが、一歩足りんな」
瞬間、衝撃と共に僕は吹っ飛ばされた。
「かっ…はっ…」
ぐらつく意識の中、必死で夏ノ宮さんの手元を探る。
槍を一回転させたのまでは目で追えたけど、その後何が起こったのまでは追い切れていない。
槍を逆さに持った、ということだけ把握したのち、僕の意識は闇の中に墜ちた。
「っう…ここは…」
「よくやったな新入り!夏ノ宮さん相手にあそこまで行くなんて、お前何者だよ?」
ここはどこだと周囲を見渡せば、不愛想な石造りの壁の部屋に真っ白な点が天蓋付きベッドがズラリ。どうやら僕は夏ノ宮さんにボコされた後、医務室に担ぎ込まれたらしい。薬品の香りは微塵もしないが、壁沿いの棚には丸められた包帯や薬つぼ、薬研などが収められていた。
「いやぁ、特にスポーツや護身術の類はやってませんよ。ただ普通の人よりちょっと、刃物を向けられるのに慣れてるだけで」
「それはそれでどうかと思うがな?」
思えばやたら刃物に所縁のある人生だ。幼い頃の事件を皮切りに、僕が負ったけがはほとんどが刃傷沙汰絡み。おかげでまだ15歳だというのに、腹やら腕やらに歴戦の軍人のごとく白い傷がたくさん浮かんでいる。
「まぁまぁ、それはともかく…最後の一撃、僕はいったい何をされたんですか?」
うっすらひっくり返された槍が見えただけの一閃。僕を吹っ飛ばしたあの一撃のからくりを僕はどうしても知りたかった。
「あぁ、それな。なんのこっちゃない、お前は石突でどつかれたんだよ」
「石突?」
つまり、信じがたいことに夏ノ宮さんはシールドバッシュで吹っ飛ばされたあのコンマ数秒の間に槍の前後を入れ替え、横薙ぎに僕を殴り倒した…ということになる。
「いやいやいやいや…どういう運動能力してるんですかあの人」
「俺にもわかんねぇよ、そんなもん」
二人そろって初対面ながら息の合った溜息をつき、僕は医務室のベッドに寝転がった。
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