日常
警察物の映画で、犯人が人質を取って建物に立て籠るシーン、よくあるじゃない?
あれと似たような感じで、ヴァンデッタ王国はフラビア王国の王族や、滞在していた要人を人質にとって、隣国や私たちに侵攻させないように仕向けたの。
自分のところの王族や貴族、将軍たちを人質に取られてしまっては、さしもの軍事大国フリューテッドも、技術大国ラテティアも手が出せなかったわ。
それからは特に話すこともないわね。断続的にヴァンデッタ王国は私たちの城に攻めてくるけど、ラテティアもフリューテッドも私たちの側についてくれているから、今のところは余裕で撃退できてる。
でも、いつ均衡が崩れるかわからない。今の私たちは、綱渡りの状態なのよ。
憂い気な目でモノローグを締めくくった唐木田さんは、気持ちを切り替えるように軽く溜息を吐いた後、
「ごめんなさいね、辛気臭い話しちゃって。さて、話は終わったし、団長のところに行ってきなさいな。多分、みんなが待ってるわよ」
「わ、わかりました」
軽く笑いながら、僕を部屋の外へと送り出した。
「あれ、団長って…どこだっけ」
なお、まだ城内の構造がつかめていない僕が盛大に迷い、結局唐木田さんに付き添ってもらったことを付け加えておく。
「ここにサインかいて、ここに拇印押して…はい、できました」
「よし、契約完了だ。明後日には叙任式やるから、それまでは適当にうろついててくれ」
「はい、ありがとうございました。では、失礼します」
簡単な契約を終え、僕は晴れて城の一員となった。叙任式という単語が引っかかるけど…まぁ気にしないでいいだろう。そう信じることにした。
手持無沙汰の僕は、とりあえず団長に教えてもらった訓練場に行くことにした。この世界で生きていくにあたって、おそらく剣術は必須スキル。手ぶらで行っても大丈夫だと言われていたので、とりあえず着の身着のままで行くことにした。
「しっかし、冷えるなぁ…ここ、多分結構北の方にあるんだろうなぁ」
青々と茂る針葉樹のせいで忘れていたけど、城は城内外問わず意外と冷える。唐木田さんに貰ったコートがありがたかった。
複雑にうねる城内の道を潜り抜け、十分ほどで広い空間にたどり着いた。
体育館ほどの大きさの空間ではあちこちでたくさんの人がおのおの得意な得物で打ち合っている。木製のレプリカという違いはあれど、皆の気迫はほとんど実戦のそれに近かった。
「お、さてはお前さんあんときの新入りだな?よく来たな!ちょっとこっち来い!」
「わっ、わっ、ちょっ!」
入り口でぼんやりと突っ立っていると、野太い声と共に腕をつかまれてそのまま脇の方へ連れていかれた。声には聞き覚えがあるものの、フルフェイスメットがほとんどだった戦場では人の顔なんてわかりゃしない。
「誰だっけなぁこのオッサン…」
されるがままに連れていかれたのは訓練場の壁に埋め込まれた倉庫の中。実戦に使われるような本格的な甲冑や、訓練用と思しき木製の道具が数多く乱雑に詰め込まれていた。
「っと、自己紹介がまだだったな。俺は
「大剣…あぁ、あの時の!その節はお世話になりました」
無精髭に左目のモノクルという謎のスタイルの男――夏ノ宮は、なんと僕の初陣で大剣をくれたあの人だった。
「構わん構わん、どうせあの剣は長いこと使ってなかったんだ。それより、お前さん剣の訓練をしに来たんだろ?付き合ってやるよ」
「あ、そうでしたそうでした。ありがとうございます」
予期せぬ再開のショックで吹っ飛んでいた本来の目標を思い出し、僕は渡されるがままに訓練用の木盾と木剣を手に取った。
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木の大盾
大陸中でよく使われる木製鉄縁の大盾。片手でも振り回せるほどの軽い重量と、素材に見合わぬ頑丈さゆえに、訓練用、実戦用ともに様々な状況で幅広く使われる。
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