蒸気機関

明後日に迫った叙任式を前に、なまじ僕がソコソコ強いばかりに手加減ができない(By夏ノ宮さん)という意見が出たことから叙任式が終わるまでの戦闘訓練が禁止されてしまい、僕は再びあてもなく城内をうろついていた。

武器防具の手入れは終わらせてあるし、新入りの僕には衛兵の当番もまだ回ってこない。敵国ヴァンデッタの軍隊も少し前に叩き返したので、城は比較的平和な雰囲気に包まれていた。


「そういえば、この城の地下はどうなってるんだろう」


練兵場への途中に、地下へと続く頑丈な大階段があったのだ。

人も頻繁に出入りしているところから、立ち入り禁止区域の類ではないだろうと考えた僕は、城壁の上をトコトコ歩いて地下へ向かうことにした。


「おお、籏野じゃねぇか。こんなところで何やってるんだ?今日の訓練は禁止されたはずだろ?」

「あ、前埜さん」


通りすがりに曲がり角から出てきたのは医務室でお世話になった前埜さん。結構がっつりめに汗をかいているので、どうやら模擬戦をやってきたようだ。


「ちょうどよかった。この階段の下って何があるんですか?」

「あぁ、ここの下な。ちょうどいいや、お前も知っといたほうがいいだろう。ひとっ風呂浴びてくるから、ちょっとそこで待っててくれ」


そう言って去った後、ものの五分でさっぱりとした前埜さんは帰ってきた。


「…カラスの行水じゃないっすか」

「うるせぇ!汗が流せりゃいいんだよ!」


短すぎる入浴時間にツッコみつつ、僕らは階段をカツカツと下って行った。




「さて、ようこそ地下層へ。ここはいわゆる技術開発室ってやつだ」

「というと?」

「要するに、現代技術チートの再現ってとこだ」


猛烈に煙たい地下室は、技術者たちのたまり場だった。

フリューテッド・ラテティアの両国から集められた技術の数々が記された設計図があちこちに散乱し、城を取り囲む大河に取り付けられた水車が内部の数々の機械に動力を提供している。

工具や鉄材の山の向こうでは、白煙の元凶である機械が唸りを上げていた。


「内部圧力、今のところ正常!爆発は回避できそうです!」

「よしよし、今回の試作七号はあまり死ななくてよさそうだぞ…って、非常停止!まずいぞ、シャフトが折れる!」

「へ?あっ…やっべぇぇぇぇぇぇぇ!」

「死んでも止めろ!これ以上予算を散らすわけにはいかん!」


呆然と見つめる僕の前で、技術開発局員の奮闘のかいあってか焼死体を三つほど生産したものの、爆発することなく機械は停止した。


「人間と違って便利なもんですねぇ、不死って」

「さては籏野お前、技術開発部ここの局長と同じクチだな?」

「心外ですよ、前埜さん!MADと一緒にしないでください」


「誰がMADだ!ボクはこれでも団長に認められた立派な技術屋なんだぞ!」


前埜さんとふざけていると、奥から怒声とともに小柄な女の子がすっ飛んできた。

中世真っただ中の世界にあって壊滅的に時代背景に似合わない白衣を身に纏い、年季の入ったモノクルをかけ、体のあちこちを煤やら薬品やらで汚しまくるその姿はまさに技術屋。

MAD呼ばわりされたことに怒ってはいるのだろうが、体格とボクっ娘口調のせいでいまいち威厳が出ていない。傍から見ればせいぜい腹を立てた妹を宥める兄二人がいいところだろう。


「わりぃわりぃ。だが、部下はもっと大切にしたほうがいいと思うぞ?」

「それに関してはボクの責任じゃありません。むしろ連中のほうが勝手に命散らしてくんだからもー…」


そういう彼女の視線の先には、


「よーし、今回の七号機は三乙で済んだな。次は二乙を目指すぞ!」

「目指せ犠牲者ゼロ!」

「初号機の大爆発もあれはあれで面白いんだがなぁ…」

「あ、副部長が乙った」

「わりぃわりぃ、蒸気に蒸されちまった」


「すまん、これは俺が間違ってたわ」

「わかればよろしい」


犠牲を一切気にすることなく作業を続ける研究員たちの姿があった。

曰く、「前世は死んだらおしまいだったが、今はどんなヤバい橋を渡っても帰ってこられるから気が楽だし好き放題できる」とのこと。

…さてはこの人達人間じゃないな?


「っと、自己紹介がまだだったね。僕は波柴はしばミズキ。この城の研究開発部門の部長をやっている者だ。君は確か最近来たばかりの新入りだったね?研究開発部に入る気はないかい?」


自己紹介からノータイムで自分の部署への勧誘を挟んできた彼女の名前は波柴ミズキ。当然ながら僕は研究開発なんて専門外なので、おとなしく断っておく。


「籏野喜代彦です。研究開発部に入る気はないですが、どうぞ末永くよろしくお願いします」

「残念だねぇ、人手が増やせると思ったのに…まぁいいさ。その代わり、君は最前線でボクの安全を守ってくれるんだし」


「…善処します」


しれっと重い期待が掛けられたような気がしたが、とりあえず聞き流しておく。そして、僕は一番気になっていた質問をぶつけることにした。


「ところで、後ろで爆発寸前のその鉄の塊はいったい何なんですか?見たところ、兵器というわけでもなさそうですが…」


後ろで暴れる鋼鉄製の爆発物を指して質問したボクの言葉に、波柴さんはにやりと笑って答えた。


「あぁ、アレかい?お目が高いねぇ。あれは今僕らが取り組んでいる最難関課題さ。



蒸気機関だよ」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


主人公

名前:籏野喜代彦

年齢:16歳

職業:学生

レベル:そんなもんはない

特性 : グロ耐性 B

装備:

- フラビア騎士の大盾

- フラビア騎士の胴鎧、脚鎧、手甲

- フラビア兵の兜

- クレイモア

-東洋の短弓




〈試製七式蒸気エンジン〉

この世界ではないどこかからもたらされた技術を再現しようとする変態的な集団によって作り上げられた動力機関、その試作七号機。技術力の差から巨大な鋼鉄製の爆弾となり果てているものの、無尽蔵につぎ込まれる予算と携わる不死たちの執念によって未だ開発が進められている。

遠い未来、これに携わった不死たちは口をそろえてこう言ったと言われる。

『探求と天秤にかける時、命は羽より軽くなる』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リスポンしたら業火の中 舞葉 @Maiharu10

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ