宝玉
真っ直ぐ突き刺した大剣の刀身を伝って流れてきた敵兵の血が、はめ込まれた宝石を紅く染める。
とっさに引き抜けば、返り血が顔にまで飛び散った。
バサリ、と音を立てて崩れ落ちた敵兵の遺体に、しばし視線が釘付けになる。
「殺…した…僕が…この手で…」
剣を持つ右手がガタガタと震えだし、胃の腑から吐き気がせりあがってくる。
感覚的にはつい数時間前まで現代日本で学生をやっていた僕にとって、『人を殺した』という事実は精神を一時的にぶち壊して余りあるものだった。
「うあ…あ…あぁぁぁ…「しっかりしろ、若造が!」
「まだ戦いは終わってないん!吐くなら終わってから存分に吐け!」
膝から崩れ落ちた僕を引っ張り上げた誰かの声がする。見ると、大剣をくれたオッサンに襟首をつかまれ、団長と呼ばれていた指揮官が僕の顔を覗き込んでいた。
「わかるさ。俺も初めての殺しの時はそうだった。だがなぁ…っと!」
両手で掴んだ巨大な剣で敵兵たちをなぎ倒しながら、団長は続ける。
「間違っても殺しを正当化するな。お前は不死の身の上で限りある命を一つ終わらせた。そしてその上で言おう。間違っても生を諦めるな。たとえ不死だろうとしがみ付け。焼けた石炭に齧り付いてでも生きろ。良いな」
僕にはコクリと、素直にうなづくことしかできなかった。しれっと不死というワードが出たのにも、この時は一切気づいていなかった。
改めて城壁上に視線を写す。ゴミか何かのようにぶち撒けられた惨状に多少吐き気を催したものの、元から多少なりともグロ耐性はある身。その上、覚悟は決まっている。足取りは、しっかりしていた。
〈しっかりしろ。あの時の怒りを思い出せ〉
フローリングを染めた鮮血。唐突に終わりを迎えた日常。
どれだけの医療を注ぎ込もうと、頬の傷はもう治らなかった。
向けられた軽蔑と哀れみの視線、そして、奴がのうのうと娑婆の空気を吸っていると知った時のあの衝撃。
失ったものの代わりに得た生きる意味は、ただ一つ。
「いつか必ず、奴に報いを」
それが果たされるその日まで、僕は絶対に死なない。
その時僕は気づかなかったけれど、僕は近くにいた仲間が怯え、団長ですら冷や汗を流すほどの殺気を放っていたらしい。
「あれ?これは…ネックレス?」
ふと気がつくと、胸に大きめのネックレスが掛かっていた。もちろん、かけた覚えは一切ない。
不思議と見つめていると気分が落ち着いてくるその宝石は、剣に嵌っているものと同じものだった。
「なんだか知らんが、まぁ良いか。もらえるものは貰っとこう」
周りの誰かが掛けてくれたのだとその時は信じ、僕は団長の後に続いて三番塔の内部へと進んでいった。
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主人公
名前:???
年齢:16歳
職業:学生
レベル:そんなもんはない
特性 : グロ耐性 B
装備:
- フラビア騎士の大盾
- フラビア騎士の胴鎧、脚鎧、手甲
- フラビア兵の兜
- セミアイアン・クロスボウ
- クレイモア
オプション装備 :
- 導きの宝玉
とある国の山岳地帯でのみ採掘される希少な宝石、蒼炎アイオライトを、それも過去最大級の大きさの物を贅沢にも丸ごと真円に磨き上げ、銀のリングに嵌め込んだ装飾用の宝玉。作られたのは数世紀を数えるほど前だが、人から人へと受け継がれ続け、現在でもなお世界のどこかで誰かの身体に身に付けられている。その輝きは復讐心に駆られ、自らを見失った者を導き、険しい道のりの先に未来を見出させると言う。
初陣編、もうちょっとだけ続きます。
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