二十五膳目 「山葵のマッシュポテト」
「次は何作んの?」
「次はマッシュポテトにするよー」
陽平が鍋に水をたっぷりと入れ、それをコンロにかける。
「おー、定番じゃん」
「ま、もちろん少し俺流にするけどね」
「美味くなるなら何でもいーや」
「ま、任せとき」
陽平がポンと胸を叩いた。
鍋の水が沸いてきたのを見計らい、陽平は皮をむいて適当に切ったじゃがいも入れ、柔らかくなるまで茹でていく。陽平が和樹に唐突に話を振る。
「和樹、次はどこ旅行行きたい?」
「え、どしたの急に」
「いや、さっきの話で俺も旅行行きたくなったからさ」
「陽平さん、何だかんだ一人でどっか出かけてるじゃん」
「だってお前誘っても、休日は基本家でぐーたらしてるだけじゃん」
「それが休日の正しい過ごし方ってもんでしょ」
なぜか得意げな顔で、和樹が胸を張る。
「いや、俺は基本短時間でも外に出たい派の人間だから」
「陽平さん、タフ過ぎるんだよ…」
「お前がヘタレなだけでしょ。スポーツやらしたらお前の方が上手いのに」
「ヘタレって…、ひどいなぁ」
「ま、どこか行きたいとこ考えといてよ」
陽平が冷蔵庫から小瓶を取り出してきた。小瓶の中は褐色の液体は満たされており、液の中には小指の先ほどの小さな細長いものが浮いていた。フタを開け、液の中を探るようにして陽平が細長い物体をつまみ出す。べっ甲色のそれは、菜っ葉の茎のような見た目をしていた。
「…それは?」
「山葵の茎の酢漬け」
「山葵?」
「そう。山葵」
陽平がある程度の量山葵の茎を取り出すと、それをまな板の上で粗めに刻んでいく。
「和樹、串刺していも柔らかくなってるか見て」
「はーい」
和樹が串を手に、火傷にびくびくしながら鍋の中のいもに串を刺す。
「どう? 串すんなり刺さった?」
「もう大丈夫そう」
「おっけ。じゃぁあげよっか」
陽平は鍋を傾け、じゃがいも豪快にザルの上にあけた。そのいもをザルを使って裏漉ししていく。そこに少量の牛乳とバターを加え、ゴムベラを使って滑らかなペースト状にする。
塩で味を整えた後で、陽平はさっき刻んでいた山葵の茎を入れた。茎を混ぜこんだ後で、陽平は一度味見をする。食べ終わると陽平は首を傾げ、近くに置いていた醬油に手を伸ばした。醬油を一回し、いもに色がつかない量を加えてもう一度混ぜ合わせていく。混ぜ終わるとスプーンに少量取り、最後にもう一度味見をした。
「さ、これで完成」
スプーンに一口分マッシュポテトをすくい、そのまま和樹に手渡す。和樹はスプーンごと舐め取るように口に入れた。
「山葵入れると、こんな感じになるんだね」
「フツーは黒胡椒入れるんだけど、その代わりに山葵にしてみたの」
「ピリ辛だけどツーンとした感じはなくて、俺これ好きだわ」
「茎はそんなに辛くないしね。乳製品入れてるし」
「これ、チーズ入れても美味いんじゃない?」
和樹にしては驚くほど的を得た意見である。
「それも考えたんだけど、他でチーズ使うつもりだからやめたの」
「ふーん、何作んの?」
「それは…、まだ内緒」
陽平がいたずらっ子っぽく人差し指を唇に当てた。
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