二十四膳目 「じゃがいもの味噌炒め」
「もう一品、郷土料理にしよっか」
「次はどこのにするの?」
「次はねぇ、福島」
「ふぅーん。どんな料理?」
「味噌かんぷら」
「また知らない料理出てきた」
「まぁ、じゃがいもの味噌炒め?、みたいな感じよ。かんぷらってのは福島に方言で小さいじゃがいものこと」
「フツーに美味そう」
「じゃがいもと味噌って相性いいからね。結構全国にその組み合わせの郷土料理あるよ。
そう言いながら、陽平はじゃがいもを皮つきのまま一口大に切り分けていく。
「いつも思うんだけどさ、」
「ん?」
「陽平さんってそーゆー知識どこで仕入れてくるの?」
「うーん、もう十歳ぐらいにはそーゆー料理本読み漁ってたから、そこで覚えた料理も多いかな。ネットで偶然見つけた料理もあるし、実際旅行に行った先で見聞きしたものとかもあるよ」
「ずっとそういうことばっか勉強してたの?」
「そうだね。料理したくても、父には教えてもらえなかったから」
和樹には、陽平がいもを切る手つきが少し荒くなった気がした。
「お父さん、料理人なんだよね?」
「そう」
陽平の返事はどこか素っ気ない。陽平の顔色が曇ったことを悟り、和樹がそれとなく話題を逸らす。
「…そう言えば、最近旅行行ってないね」
「そう言えばそうね」
陽平の顔色が少し明るくなる。それを見て、和樹がホッと胸をなでおろす。
「最後行ったのは、陽平さんの誕生日の時だっけ?」
「だね。海行ったね」
「また海行きたいねー」
陽平がフライパンをコンロにかけ、温まった頃合いで胡麻油を少し多めに入れる。その中に一口大に切ったじゃがいもを入れていく。
「ねぇ、和樹」
「ん?」
「そんな気を遣わなくていーよ。別に俺機嫌悪くないし」
「え?」
陽平はとっくに和樹の変化に気づいていたのだ。
「俺のご機嫌取るようなことしなくていーよ、ってこと」
「いや、陽平さんにお父さんの話振ったの迂闊だったな、と思って反省してさ」
「俺、そんなあからさまに機嫌悪そうな顔してた?」
「うん、ちょっと」
「お前もそういうトコは正直だよなー」
フライパンを振りながら、陽平が笑った。
「ま、それが和樹のいいトコでもあるんだけどさ。いいんだよ? いつ通りワガママな和樹君で」
「ねぇ、俺のことホントに褒めてる?」
和樹が頬を膨らませる。
「褒めてる褒めてる。お前といると、俺はありのままで居られるから感謝してるよ」
少し照れながら、陽平は和樹に向き合う。
「はい、この話はおしまい。さ、もう出来上がるよ」
陽平がポンと手を叩いた。
陽平はフライパンの中に、砂糖と味噌を入れた。中のいもは、既に少しきつね色に色づいている。調味料が焦げ付かないよう、火を弱めていもにタレを絡めていく。砂糖と味噌が溶け合い、少し飴状になっている。最後に陽平はフライパンをゆすってまんべんなくタレを絡ませた。
「さ、出来たよ!」
いもを数切れ皿に乗せ、楊枝を刺して和樹に渡した。
「やけどしないでよ」
「分かってるって」
和樹がふうふうしながらいもを食べる。
「どう?」
「美味い!」
陽平は和樹の幸せそうな顔を見ながら、和樹にこれからも美味い物を食べさせていきたいと思っていた。
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