夜の過ごし方

 とある日の真夜中。

 陽平は真っ暗な寝室のベッドの中で考え事をしていた。すぐ脇では和樹がいびきをかきながら寝ている。さっきまでかすかな寝息が聞こえていたのだが、ようやく熟睡したらしい。こうなれば、ちょっとやそっとのことでは和樹は起きてこない。

 陽平はゆっくりとベッドから起き上がろうとする。和樹に抱きつかれていたので、今まで動くに動けなかったのだ。和樹を起こさないようにゆっくりとその腕を振り解き、足音を殺して寝室から出る。そのまま隣りの仕事部屋に向かい、窓辺の机に向かって原稿を書き始めた。

 昼型の和樹と違い、根っからの夜型人間の陽平は、こうして夜中に原稿書きをすることも多いのだ。一晩中書いていて、気がつくと空が明るくなっていた、なんてことも一度や二度ではない。昔からのクセなので、徹夜も陽平にはさして苦ではない。対する和樹は、日付が変わる前からもう眠くなる人間で、代わりに朝は六時とかには起き出すような人間なのである。

 一時間程作業をしていると、背後で和樹の声がした。

 「あ、やっぱここにいた」 

 「珍しい。起きたんだ?」

 陽平がペンを置いて振り返る。

 「寝返り打ったら横にいるはずの陽平さんがいなかったんだもん」

 「いつも起きないから、朝まで起きてこないかと思ってた」

 「ほーら、夜更かしはダメだよ。俺と約束したじゃん」

 「ちゃんと同じベッドで一緒に寝たでしょ?」

 「途中で起きちゃ意味ないんだって……。ほーら、戻るよ」

 「キリがいいトコまでやっちゃいたいんだけど…」

 「だーめ。そう言って陽平さんまた朝まで原稿書くから」

 「今日はちゃんと寝るって」

 「じゃぁ、終わるまでここで待ってる」

 「はい?」

 和樹が引き下がりそうな素振りはない。仕方なく陽平が折れ、和樹を部屋に転がっていたイスに座らせる。

 「なるべく早く終わらせてね」

 陽平のすぐ脇に和樹が陣取る。

 「はいはい」

 それからしばらくして、和樹の方から規則的な吐息が聞こえてきた。

  

 

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