お酒を飲んだ時

 「カンパーイ!」

 「はい、乾杯」

 うきうきの和樹のグラスに、陽平がそっとグラスを当てる。

 「っぷはぁー! やっぱ仕事終わりの生が一番うめぇわ」

 和樹の鼻の下には白いヒゲがうっすらとできている。金曜の夜、二人とも一週間の仕事を終え、居酒屋でささやかな祝杯を上げているのだ。

 「お前、ホント酒好きだよな…」

 「あったりまえじゃん!」

 和樹がジャケットを脱ぎ、左手でネクタイをするすると解いた。

 「あー、あちいー」

 ワイシャツの襟元をボタンを緩め、袖をまくり上げた。その様子を陽平はまじまじと見ている。その視線に、和樹が気づく。

 「どーしたの?」

 「色っぽいなぁー、って……」

 「え? ナニナニ? いつも見てんじゃん?」

 「それはそうだけど…、いや、仕事終わりのサラリーマンが、ネクタイ解く仕草ってやっぱいいよなぁ、って思って」

 「ホント陽平さんそれ好きだよねー。ま、そんなことより呑みなって」

 和樹はほとんど一気飲みのような勢いで一杯目のジョッキを空にし、もう二杯目を飲んでいる。対する陽平のカシオレは、まだグラスの半分ぐらいまで残っている。

 「お前なぁ…、俺が下戸だって知ってんのに、何で毎回飲ませようとすんのよ」

 「それはー、酔ったよーへーさんがかわいいから」

 酒が回ったのか、和樹が少し甘い声を出す。

 「か、かわいいっておま…、そーゆーお前はいつも酔ってダル絡みしてくんのやめろよ」

 「だってぇー、酔った時はよーへーさん素直に甘えさせてくれるじゃん。酔っぱらったら外でもいちゃつけるしぃー」

 「お前…、ホントはまだ酔ってないだろ?」

 「あ、バレた?」

 「フツーに喋れ、バカ」

 陽平が和樹の頭をポカンと歩く。



 それから二時間後───。

 和樹の口車に乗せられ、陽平はすっかり出来上がっていた。赤ら顔の陽平は酔って机の上に突っ伏し無防備に寝こけている。

 「相変わらず…、たかがグラス四杯でこんなになっちゃうなんて…」

 優に陽平の倍は飲んでいた和樹だったが、それでも顔色一つ変わっていない。冗談で酔ったフリをして陽平に絡むことはあっても、酒豪の和樹が酔っ払うことは滅多にないのだ。

 「ほーら、陽平さん、帰るよー」

 「うーん…」

 「ほら、肩貸すからさ、」

 和樹が陽平を抱き起し、肩に陽平の左腕を回す。陽平がこけないように支えながら、和樹は店を出た。

 「かずきー」

 「んー、どした?」

 「ねぇ、かずくん…」

 「うん、だから何?」

 「えへへー、なんでもなーい」

 酔っ払った陽平が無邪気に笑う。

 和樹は一刻も早く陽平を家に連れ帰りたいと思いながら歩いていた。

 

 


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