七膳目 「空豆と豚のトマト煮」
「ここまで細々した料理が多かったから、次は主菜作るよ」
「肉、魚?」
「空豆と豚肉のトマト煮にするつもり」
「あ、洋風にするんだ」
「和食で考えてたんだけど、いいの思い浮かばなかったのよ」
「ふーん。陽平さんでもそんなことあるんだ」
「そりゃぁ、そういう時もあるよ。和樹、冷蔵庫から豚バラのブロック出してくれる?」
「はーい」
和樹が豚バラのパックを調理台の上に置いた。中のバラ肉を、陽平が一センチほどの厚さに切り分けていく。
「コンロの下からホーローの鍋出して、火にかけて」
「油は?」
「鍋温まったら、オリーブオイルを薄めに」
「了解」
バラ肉を切り終えると、陽平は塩茹でにしないで避けておいた生の空豆を数本、サヤから取り出した。が、中の甘皮はむかずにそのままにしてある。
「はい、油ひいたよ」
「ありがと。和樹、もう少し手伝ってくれる?」
「まぁ、いいけど」
「じゃぁ、鍋に鷹の爪の輪切りとおろしニンニク入れて。焦げるから、火は強くしないで」
「ホント人使いが荒いんだから…」
文句を垂れつつも、和樹は素直に陽平の指示通りに手を動かしていく。
その横で、陽平は玉ねぎをくし形に切っていく。
「はい、終わったよ」
「ありがと。油跳ねるかもしれないから、少し離れてて」
そう言って陽平は鍋の中にバラ肉を入れる。
胡椒を振り、肉の表面にほんのりと焼き色がつくまで強火で炒めていく。焼き色がついたら生の空豆と玉ねぎも鍋にいれ、そのままさらに炒めていく。
「空豆、皮むかずに入れるの⁉」
「そうだよ。皮も食べれるし」
「へー、初めて知ったわ」
玉ねぎが少し透き通ってくるまで炒め、陽平はトマト缶を一缶分まるごと鍋に注いだ。それに水を足し、コンソメのキューブを落としてガスの火を細める。
「これでフタして、十五分の煮こめば完成かな?」
「これでよーやくゆっくりできるね」
「何言ってるの。その間にもう一品作るよ」
「マジで? ホントようやるわ…。陽平さん、台所いる時生き生きしてるよね」
「まぁ、料理好きだからね」
そう言いながら、陽平はもう次の料理の支度を始めている。
「和樹は後片づけお願いしようかな。そこの空豆のサヤとか」
「はーい」
洗い物を全て流しに入れ、ふと和樹は調理台の隅にまとめられた空のサヤに手を伸ばした。
「サヤの中って、こんなふかふかなんだね」
物珍しいげに、和樹がサヤの中を触っている。
「そういう絵本あったよね。昔読んでもらった記憶がある」
「あーなつかしー。俺も読んでもらったわ」
「その白い綿爪立てて削ってごらん? 白い綿が黄緑色になるから」
「へぇー、おもしろーい」
和樹が指の腹で綿をねちょねちょして遊んでいる。
「サヤの削った跡光に透かして見るのもキレイだよ」
「へぇー」
「気が済んだら片づけ終わらせてね。あとお米三合研いどいて」
「はぁーい」
───それから十分後。
陽平がホーロー鍋のフタを取ると、トマトの少し酸味のある匂いが台所に広がった。
「よし、大丈夫そうだね」
「これでもう完成?」
「…味見したいんでしょ?」
「まぁ、」
和樹が頷く。
「言わなくても顔に書いてあるよ」
「もう隠す気ないもん」
陽平が小皿にトマト煮をよそい、それを和樹に渡す。
「どう、味は?」
「空豆って、煮ても美味しいんだね。ピリ辛で酸味もあって、すごく俺好みの味だわ」
「そりゃ、それ目指して作ってますから」
得意顔で陽平も味見をする。煮こむ時間を短くしたおかげで、玉ねぎも空豆も本来の食感が残っている。陽平は汁を舌の上で転がし、味つけの確認をしていく。煮こんだことでほどよくトマトの酸味も抜け、角の取れた味になっている。一口目から舌先に塩気がガツンとくることもない。
「まぁ、こんなもんかな」
そう言って陽平は小皿を置いた。
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