六膳目 「空豆のすり流し」
「いやー、ホント高いところの物取ってくれて助かるわ」
「ま、陽平さんより俺の方が背高いからね」
踏み台に乗ったまま、和樹が得意気に胸を張る。百七十前半の陽平に対し、和樹の身長は優に百八十を超えている。踏み台の高さも手伝って、今の陽平の目線は和樹の胸元辺りだ。
「はい、ミキサー」
和樹がゆっくりとミキサーを調理台の上に置く。
「ありがと。じゃあ中だけ軽く水でゆすいじゃって」
「はーい」
「さ、品数多いから次の料理もパッパッと作っちゃうよ」
「俺何か手伝うことある?」
「いや、これも俺一人で作れるから、洗い終わったら和樹はアレの続きお願い」
「はーい」
ミキサーを洗い終え、和樹はまた例の作業を始める。陽平は冷蔵庫を開け、中に入っていた小鍋を取り出した。
「それ何?」
「昆布を水に漬けたやつ」
「へー、出汁取るの?」
「そう」
そのまま陽平はその小鍋を火にかける。沸騰してくるのを待つ傍らで、陽平は先ほど塩茹でにした空豆の甘皮を一つ一つむいていく。むき終わった空豆を、ミキサーの中に入れていく。
沸騰寸前で小鍋から昆布を取り出し、それと入れ替わるように、今度はかつお節を一掴みふんわりと入れる。一呼吸置いてから火を止め、かつお節が鍋底に沈んだ頃合いで出来上がった出し汁を漉しとっていく。
陽平はその出し汁を少しだけミキサーの中に加え、ミキサーのスイッチを入れた。ミキサーは唸り声をあげ、数秒で中には滑らかな黄緑色のペーストが出来上がった。陽平は一度ミキサーを止め、また少し出し汁を加えてスイッチを入れる。その工程を数回繰り返して徐々にペーストをのばしていき、出来上がった液体を再び小鍋に入れてふつふつとしてくるまで火にかける。
「で、結局何作ってんの?」
「空豆のすり流し」
「何かスープみたいだね」
和樹が小鍋の中をまじまじと覗きこむ。
「まぁ、和風のポタージュスープみたいなもんだからね」
「へー、どんな味になんのか見当もつかないわ」
「和樹、頼んでたのは終わった?」
「終わったよ。まったく、陽平さんたら人使いが荒いんだから…」
「お疲れ様。少し休んでていいよ」
味醂と醬油を手に取り、陽平はすり流しの味を整えていく。
最後に味見をして、満足気な表情を浮かべた。
「さ、できたよ。食べてみ?」
陽平はスプーンに少しだけすり流しをすくい、和樹の口元まで運ぶ。
「やけどしないように」
和樹がゆっくりとスプーンに口をつける。
「全然青臭くない!」
「そりゃそーでしょ。誰が作ってると思ってんの」
「まぁね」
「今日は少し熱いから、これを冷やして食べようかなぁと思って」
「へぇー美味そう」
「だからちょっと味濃いめにしてるんだけど、和樹は気づかないよね」
「俺濃いめの味つけが好みだからなぁ…。そっちの方が酒進むし」
「またお前は酒かよ…」
陽平は呆れた顔で和樹を見る。
その陽平の顔を見て、和樹は無邪気に笑った。
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