四膳目 「空豆のポルトガル風サラダ」

 相変わらず、和樹はザルに上げた空豆をつまんでいる。

 「和樹、そんなつまみ食いしたらなくなるよ」

 「えぇー、まだ一杯あるんだからいいじゃん」

 「てか、まだ少し固いはずなんだけど?」

 「うん、少し固いけど俺気にしないもん」

 「はい、つまみ食い終わり! また手伝ってもらうよ」

 「はぁーい」

 和樹が気だるげな返事をする。

 「さっき作った分だと足りないから、和樹は焼き空豆の追加を作って」

 「わかったー」

 和樹がグリルに空豆を入れていく横で、陽平は冷蔵庫を開ける。普段から陽平が料理をするので、冷蔵庫の中には様々な食材や調味料が入っている。

 陽平は冷蔵庫からソーセージと玉ねぎを取り出した。小さめのフライパンを火にかけ、その横の調理台でソーセージを薄く斜め切りにしていく。全て切り終わると、フライパンが丁度温まった頃合いだった。

 「和樹、フライパン使うからグリルの前どいて」

 「油使う?」

 「うん。後ろの棚からオリーブオイル取って」

 「はい、オリーブオイル」

 もう長い付き合いの陽平と和樹の呼吸はピッタリである。

 「ありがと」

 和樹からオリーブオイルを受け取り、陽平がフライパンに油を薄く広げていく。油がなじんだところで、先ほどのソーセージをフライパンに入れる。

 「はい、後は和樹に任せる」

 「え?」

 「少し端がカリカリになるぐらいの焼き加減で。和樹の好みのタイミングで火止めていいよ」

 陽平が今まで持っていたフライパンの柄を和樹に預け、また調理台で別の作業を始める。ソーセージを切った包丁とまな板から別のに変え、玉ねぎを一玉分、薄くスライスしていく。

 「ねぇ、陽平さん、今は何作っているの?」

 「空豆のサラダ」

 「サラダ?」

 「フツーにサラダ作っても面白くないから、ポルトガル風ね」

 「ポルトガル風? 陽平さん専門は和食でしょ?」

 和樹が首を傾げる。

 「まぁそうだけど、家庭料理レベルなら中華とかイタ飯とかいつも作ってるじゃん」

 「ポルトガル料理って、俺食べたことないや」

 「俺もないよ」

 包丁を使いながら、陽平はケロッとした感じで答える。

 「それなのに作ってるの?」

 「まぁ、前に本で読んで、今日はそれをアレンジしてるって感じ」

 「それで味大丈夫なの?」

 「まぁ、味はレシピ見た感じで想像できたから大丈夫でしょ」

 陽平は切り終えた玉ねぎを、ボールの冷水にさらす。

 「和樹、ソーセージばっか見てると空豆が炭になるよ」

 「あっ、ヤベっ」

 急いで和樹がグリルを開ける。

 「まぁそれぐらいなら大丈夫かな」

 陽平が黒焦げのサヤを見て笑う。

 「五本分は今作ってるサラダに使うから、少し冷めたら中の皮までむいちゃって」

 「はーい」

 そう言うと、陽平は冷蔵庫からミニトマトを取り出した。取り出したミニトマトのヘタを取って水洗いし、それを半分に切っていく。

 「陽平さん、ソーセージこんな感じでいい?」

 和樹が陽平の方にフライパンを少し傾けて中を見せる。

 「うん。オッケー」

 その言葉を聞いて、和樹が火を止めた。

 「これどーすればいいの?」

 「とりあえずそのままでいいよ。空豆むいちゃって」

 「わかったー」

 黙々と和樹が空豆をむいていく横で、陽平はをドレッシングを作り始める。ボールに酢をいれ、砂糖、マーマレード、マスタードを順番に加えていき、全てを混ぜ合わせ、最後にオリーブオイルを垂らした。出来上がったドレッシングの中に、冷水にさらしていた玉ねぎを入れる。

 「はい陽平さん、空豆むき終わったよー」

 「ありがとー」

 和樹から空豆が入った皿を受け取り、それもドレッシングのボールに加える。

 「和樹、ソーセージこの中に入れてー」

 「はいよー」

 和樹がフライパンからボールにソーセージを移していく。陽平はそれにミニトマトも加え、全体に味が馴染むように混ぜていく。

 「和樹、さっきミント買ってきたでしょ?」

 「あ、うん」

 「冷蔵庫から出して、水洗いして。その後細かくちぎって」

 「え、この中に入れんの?」

 「そうだよ。これがポルトガル風」

 「へぇー」

 陽平の持つボールに和樹がミントをちぎって入れていく。

 「サイズこのぐらい?」

 「もう少し大きくても大丈夫。茎の部分は捨てちゃって大丈夫だよ」

 「オッケー」

 和樹の手元からミントの爽やか香りが立ち上ってくる。ミントを入れ終わると、陽平はもう一度ボール全体を混ぜ合わせた。

 「ほら、味見してみ?」

 陽平は調理台の横の流しで手を洗っていた和樹の口に、サラダを一口放りこんだ。

 「どうよ?」

 「思ってたほどミントの味しないね。油っこいソーセージもサッパリ食べれて美味しい!」

 「でしょ?」

 陽平は得意顔でまた次なる料理の支度を始めるのだった。

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