第36話 開戦間近

 小型艇に乗り込むと、シシーから通信が入った。


宇宙要塞アナザーヘブンの展開、及びイカロス100隻の布陣が完了していました』


「あたしのエトワールもちゃんとあるんでしょうね?」


『すでに起動が完了しています。エクリが搭乗すれば、すぐにでも戦闘に入れるでしょう』


「さっすがシシー、用意がいいわね」


 シシーの連絡にエクリが顔をほころばせるのだった。






 一方、海賊船のレーダーには、アジトから放たれた小さな影が映し出されていた。


「あれは……小型艇!?」


「まさか、脱走したのか……!?」


「まずいぞ……こんなことがお頭の耳に入ったら……」


 動揺する海賊たちの背後に影が伸びる。


「…………何がまずいんだ?」


「ひっ、お頭……」


「バカだバカだと思っていたが、留守番一つできんとは……。残っていた奴らは何をしている……!」


「はっ、それが……船橋ブリッジも通信室も使えないのか、連絡が……」


 船内はオフラインとなっているため、基本的には船橋か通信室でしか通信できない。


 すなわち、船橋と通信室に何かがあった日には、アトランティスとの連絡が一切取れなくなってしまうのだ。


 支配するための電波統制が、ここにきて仇となるとは……。


「……………………」


 デストラーデの身体がわなわなと震える。


「お、落ち着いてください、お頭」


 配下の海賊たちが宥めていると、見たことのない回線から通信が入った。


『よう、ボス』


「お前は……」


 通信相手の顔には見覚えがあった。

 たしか、新人の機関士だったか……。


「……いま忙しいんだ。お前に構っている暇は……」


『ああ、それなんだが、今この時をもって海賊稼業を辞めさせてもおうと思ってな。最後に挨拶を済ませにきたのさ』


「……なに?」


『きれいサッパリ足を洗って、前職に復帰するつもりだ』


「……………………」


 挑発を続けるカイン・・・の言葉に、デストラーデのこめかみに青筋が広がっていく。


『今から俺は冒険者に戻る。……デストラーデ、あんたを狩って、俺はすべてを手に入れる』


「フザケるなァ!!!!」


 デストラーデの絶叫が船橋ブリッジに響き渡るのだった。






 海賊との回線を切ると、シシーが口を開いた。


『あのようなことを発言しては、デストラーデが激怒ことは目に見えています。なぜ挑発をするのですか?』


「戦いってのは、冷静さを欠いた方が負けだ。多少挑発するくらいでちょうどいい」


 ウィンドウに布陣を表示させる。


 右翼が17隻、左翼が36隻、中央部が60隻の構成だ。


 それぞれ右翼は俺のシーシュポス。

 左翼はライのハリボテイオーを旗艦に。

 そして中央部ではエクリのエトワールが、それぞれ旗艦となっている。


 対して、デストラーデ海賊団はおよそ250隻ある。


【白い牙】、警備隊との戦いで消耗しており、こちらのドローン400基を加味しても油断できる相手ではない。


 布陣の細かな調整をしていると、エクリから通信が入った。


『なんであたしが中央任されちゃってるわけ!?』


 エトワールに搭乗したエクリが通信越しに声を荒らげてきた。


『あたし、こんな軍率いたことないんだけど……』


「俺たちの中で、一番海賊と戦った経験が多いのはお前だ。エクリ以上の適任はいない」


『でも……』


「心配するな。作戦ならあるし、大抵のことはシシーがやる。保険もかけてある。胸を借りるつもりで行ってこい」


『カイル……!』


 頬を上気させ、エクリが静かに頷いた。


 かくして、イカロスで構成された100隻とデストラーデ海賊団、250隻が相対するのだった。

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