第34話 横槍

 エクリとライが決意を固めたのもつかの間、艦内に敵襲を報せる警報が鳴った。


「警備隊が攻めて来やがった! 総員戦闘配置につけ!」


 海賊たちが慌ただしく海賊船に乗り込んでいく。


「やば……もしかして、先を越されちゃった!?」


「ファック! ここにきて、警備隊に全部おいしいところを持ってかれるのかよ……!」


 星域の中心部や要地であればともかく、何もない僻地を巡回するのは、通常では考えられないことだ。


 そのことに気がついたのか、エクリが思考を巡らす。


「こんなの、どう考えてもおかしい……。【白い牙】に続いて警備隊まで……。それこそ、誰かが通報したとしか……」


「ああ、俺が通報した」


「えっ!?」


「はっ!?」


 目が点になるエクリとライに、俺は話を続けた。


「そもそも、なぜデストラーデ海賊団はこんな辺鄙なところに拠点を構えているんだ?」


「そんなの……海賊なんだから惑星やコロニーに拠点を置くわけにはいかないし、目立たないように航路から離れたところに拠点を作るに決まってるじゃない」


「……だとしたら、おかしくないか? やつらは光学迷彩のアーティファクトを持っているんだ。見つかる心配がないなら、コロニーやら航路の近くに拠点を作った方が効率的だろ。なぜ物理的に身を隠す必要があるんだ?」


 俺の言葉に、エクリとライがハッとした。


「やつらのアーティファクト、そこまで万能なものでもないらしい」


 おそらく、何らかの制限があるのだろう。


 仮に使用回数に制限があるのなら、小さい仕事には使わないだろう。限られた使用機会を有効活用するべく、大きな仕事に手を出すはずだ。


 また、アーティファクトの使用に膨大なエネルギーを消費するのなら、船内に大型のエンジンを積むはずだ。

 しかし、俺の見たところ、エンジンの大きさは拠点の規模と見合ったものだ。


 そして、アーティファクトの使用に特別なエネルギー源を必要としているようには見えない。


 そうなると、考えられるのは──


「使用には制限時間があるか、再使用にはインターバルがかかるのか、あるいは両方か……」


「はやく警備隊に知らせないと……」


 その場をあとにしようとするエクリに俺は待ったをかけた。


「なぜわざわざ教えてやる必要がある」


「えっ!?」


「デストラーデ海賊団は俺たちが先にツバつけたんだ。横取りされてたまるかよ」


 エクリとライが呆気にとられた様子で呆然とした。


「いや、でも、アンタが通報したってことは、警備隊に倒させるとかじゃないの?」


 エクリの言葉にライも頷く。


「共闘するんだろ? 足りない戦力を補うために」


 エクリとライの言い分も一理ある。


 だが、こいつらは一番大事なことを忘れている。


「あいつらを活躍させたら、俺たちの取り分が減るだろ」


「は!?」


「まさか……」


「警備隊には俺たちのつゆ払いをさせる。適度に弱らせてもらったら、手柄は俺たちが総取りだ」


「アンタってやつは……」


「どこまでもブレねぇな……」


 エクリとライが呆れながらも納得した様子で頷く。


「シシー、警備隊は今どこまで来ている?」


『現在、アトランティスまで2万キロの地点を航行中です。まもなく接敵します』


 警備隊との戦闘で出払っている今、海賊のアジトは手薄ということになる。


 ……チャンスは今しかない。


「この隙にここを脱出するぞ」

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