第33話 面会

 今月分の利息の取り立てまで、あと4日。


 残された時間が多くないだけに、エクリもライもどこか焦りを見せていた。


「ねえ、いつ頃デストラーデと戦うつもり? アンタのことだから、いろいろ仕込んでいるんでしょ?」


「…………作業の合間に、やつらの船にハッキングしてる」


「やった! じゃあ、あとは時間の問題ね」


 エクリが小さくガッツポーズをする。

 ハッキングでいちいち驚かなくなったあたり、コイツも順応したものだ。


「……まあ、仕込んだ分は無駄になりそうなんだがな」


「えっ!?」


 俺が指差す先。機関場のドックに相当する部分では、連日傷ついた船の作業をしていた。


「【白い牙】との戦闘で船が傷ついたみたいでな……。船の検査やら修理でいろんなやつらが手を加えている」


「それじゃあ……」


 検査や修理をするのなら、当然他の機関士も触ることになる。

 そのため、せっかくハッキングしてもすべて直されてしまう可能性があった。


 この隙に一気にハッキングの手を広げることもできるが、そうするにはあまりにも人手が足りなすぎる。


 時間をかけて多くの船にハッキングを施していたが、これですべてが無に帰してしまった。


「ふりだしに戻ったな」


 俺の説明を聞いて、エクリが苛立った様子で吐き捨てた。


「もうっ……アイツらに文句の一つでも言ったやりたいわね」


「なら、言ってくるか?」


「えっ!?」


「捕まったらしいぞ。【白い牙】のやつらが。……団長も含めてな」






 仕事が終わると、俺、エクリ、ライは捕虜を収容する牢が並ぶ区画にやってきた。


「……いきなり捕虜と面会できるなんて、どんな手を使ったわけ?」


「知り合いって言ったら通してくれたぞ」


「ウソでしょ!?」


 目を丸くするエクリに、ライが呆れ半分に訂正した。


「……賄賂だよ。ったく、俺の酒を勝手に配りやがって……」


「ヤブ医者め。どこの世界に消毒用アルコールを酒と呼ぶやつがいる」


 そして、さらに言えばライの私物ではない。正しくは船内の備品だ。


 ライの懐は痛くないはずなのだが、医務室にある備品はすべて自分のものとしてカウントしているらしい。


 この辺りの抜け目なさは、さすが詐欺師だと思わないでもない。


「ついたぞ」


 牢の前にやってくると、そこにはたしかに目当ての人物が収監されていた。


「いいご身分だな。団長」


「なっ……お前は……!」


「覚えていたか、俺のことを」


「な、なんでここに……」


 俺の顔を見て団長が愕然とする。


「どっかの誰かに注文ドタキャンされたおかげで経営が傾いたんでな。転職したのさ」


 俺の嫌味に顔をしかめる団長。

 さすがに堪えたのか、団長はその場に頭を下げた。


「なあ、頼む! ここから助けてくれ」


 目を丸くするエクリとライだったが、すぐに団長を見る目は厳しいものに変わった。


「……自分の都合で契約を無視しておきながら、ピンチになったら助けて欲しいなんて、ムシがよすぎるでしょ」


「エクリの言うとおりだ。まったく……誰のおかげでここまで苦労させられてると思ってる」


「な、なあ、頼むよ……! ここから助けてくれるなら、なんでもする。キャンセル料だって払うし、なんなら上乗せして払うから……」


「アンタねぇ……」


「まだ金で解決しようとしてるのか、コイツ……」


 呆れる二人を前に、団長の懇願は続く。


「頼む! 俺にできることならなんでもする! だから……」


 わかってないといった様子でエクリが深いため息をついた。


「あのねぇ……そんなんでカイルが納得するわけ……」


「いいぞ」


「いいの!?」


「っそだろ、お前……」


「助かった! 恩に着る!」


 地獄に仏といった様子で頭を下げる団長を尻目に、エクリが詰め寄る。


「いや、誠心誠意謝ってほしかったとかじゃないの!?」


「誠意(金)を見せてくれれば、俺は何も言わない」


「一度は約束破られたんだろ!? いいのかよ、また信用して……」


「詐欺師がそれを言うか?」


 とはいえ、ライの言うことももっともである。


 団長が契約を踏み倒し、キャンセル料を渋ったのがことの始まりだ。


 その団長を信用するには、イマイチ材料が足りないのも事実であった。


「……だが、どの道デストラーデを倒さんことには約束もクソもないだろ」


 デストラーデを倒して賞金を得ないことには利息の返済が追いつかず、団長の身柄もデストラーデの手に落ちたままだ。


「……なら、どの道やることは変わらない。俺らはただ、デストラーデを倒せばいい」


「しかしなぁ……」


 納得がいかない様子で、ライがつぶやく。


「それに、お前と違ってこっちは正真正銘のAランク冒険者だ。なんかの役には立つだろ。たぶん」


「たぶんって……」


「軽すぎんだろ、ノリ……」


 デストラーデを倒せば、莫大な懸賞金とアーティファクトが手に入り、おまけに【白い牙】の団長がなんでもしてくれるという。


「これだけ戦利品も増えたんだ。……そろそろ頃合いかもな」


「じゃあ、いよいよなのね……」


 決意を固めたエクリと、渋々覚悟を決めたライ。


「デストラーデ海賊団、攻略スタートだ」

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