第32話 アーティファクト
自室のベッドに寝転びウィンドウをいくつか表示させていると、エクリが顔を覗かせた。
「何見てるのよ?」
「海賊船のドラレコをコピーしておいた。コイツを見れば、戦いの様子を分析できるんじゃないかと思ってな」
ウィンドウの中では、海賊船が民間の商船を相手に一方的な戦いを繰り広げている。
「で、どう? なにか映ってた?」
「……それが、どうも様子がおかしい。
エクリが神妙な顔をした。
「妙ね……。これだけたくさんの船が出撃したのに、まったく映ってないなんて……」
ドライブレコーダーの映像を一度に12個表示させるも、その中にデストラーデの旗艦は映ってはいない。
『映像に奇妙な部分を発見しました』
「おっ、どれどれ……」
映像を巻き戻して、再び再生する。
船が、次の瞬間こつ然と姿を消した。
「消えた!?」
「まるで手品だな……」
『動画に加工の痕跡はありませんでした。CGや合成を行なった疑いは限りなく低いでしょう』
俺たちが海賊捕まる際、海賊の手の内を探るべく、周囲にはスキャナータイプのドローンを多数展開していた。
順当にいけばデストラーデ海賊団の情報を集められたはずなのだが、どういうわけか記録に不自然な点が見られる。
(CGでも合成でもないなら、実際に何かをしたことは間違いない。……じゃあ、デストラーデはいったい何をした……?)
エクリが何度も映像を巻き戻し、ううむと首をひねる。
「うーん、やっぱりよくわからないわね……。せめて、もう一回使ってるところを見れれば……」
敵襲を報せる警報が鳴った。
船内のウィンドウに襲撃者たちが表示される。
白い船に牙をあしらった特徴的なエンブレムには、見覚えがあった。
「あれは……」
間違いない。【白い牙】の船だ。
エクリも気がついたのか、露骨にイヤそうな顔をした。
「げっ……アイツらもこの辺で仕事してるのぉ?」
「ちょうどいいな」
「えっ!?」
「デストラーデの謎、あいつらに解いてもらおうか」
ハッキングした船に備えつけられたドライブレコーダー。さらには離れたところにスキャナータイプのドローンを配置し、万全の体制で観戦に入るのだった。
海賊たちが出撃すると、すぐに白い牙と接敵した。
会戦時のデストラーデ海賊団の戦力が300、白い牙の戦力が250。
ウィンドウの端に表示された両者の船数がめまぐるしく動いていた。
230、190。着実に数を減らしていく白い牙に対し、デストラーデ海賊団は微減に留めている。
「さすがデストラーデ……大物賞金首は伊達じゃないわね……」
白い牙率いる船団の中央で、突如として爆発が起きた。
多くの船が巻き込まれ、混乱する白い牙。
その隙を突かれ、デストラーデ海賊団の一斉攻撃を受けた白い牙は、たちまち敗走するのだった。
戦いが終わると、略奪タイムに入る海賊たち。
次々と拿捕した船に乗り込んでいく海賊を見て、エクリがガックリと肩を落とした。
「…………ダメね。やっぱりよくわからないわ……」
「いや、『わからない』ってことがわかった。スキャナータイプのドローンを使っても何も感知できなかった。……ってことは、向こうのステルス能力は、うちの探知能力を上回ってるってことだ。」
最高品質のセンサーを山ほど搭載している。
それでもなお、なんの痕跡も掴むことができなかったということは、答えは一つしかない。
「現代の科学力では説明できない遺物──アーティファクトを使っている」
「それって、伝説とか神話に出てくるようなやつってこと!?」
静かに頷くと、エクリの顔が引きつった。
「そんなのが相手なんて、サイアクすぎでしょ……」
ガックリとうなだれるエクリに、俺はにやりと笑ってやった。
「ついてるぞ、俺たちは」
「どこがよ!」
「デストラーデを倒せば、懸賞金だけじゃなく、もれなくアーティファクトも手に入るんだ。懸賞金と賞品の二重取り……美味すぎるだろ」
俺の言葉に、エクリの顔が引きつった。
「ポジティブ思考すぎるでしょ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます