第30話 ダクトの掃除
エクリを連れて親方の元にやってくると、掃除道具を見せながら尋ねた。
「親方、こいつには
「……好きにしろ」
親方の了解を得られると、エクリを機関場のダクトに連れてきた。
ホコリとゴミの溜まったダクトを見て、エクリが顔をしかめる。
「……………………この中に入るの?」
「そうだ」
「いやいやいや……。無理でしょ! 狭いし、汚いし……」
「だからお前が掃除するんだろうが」
汚いからこそ掃除の必要がある。
現状、機関場で働く人間の中で最も小柄なのがエクリだ。
ゆえに、この仕事はエクリにしか任せられないのだが……
「ねえ、あたしたちデストラーデを倒しに来たのよね? なんで真面目に働いてるわけ……?」
「誰が真面目に働いてるって?」
懐から配管図の写しを出すとエクリに見せた。
「このダクト、船内の至るところに通じてるらしい」
その気になれば、船橋(ブリッジ)にもデストラーデの部屋にも行けてしまう。
まさしく魔法の通路である。
「そんなに便利なら、ここを掌握しない手はないだろ」
俺の言葉にやる気が出たのか、エクリが決意を固めた様子で頷いた。
「……そうね。泣き言を言ってる場合じゃなかったわ」
ダクトに入ろうとするエクリに、スプレー缶を渡す。
「これも持ってけ」
「…………なにこれ?」
「殺虫剤だ。クモやらムシが出るらしいからな。念の為注意しとけ」
「ひぃぃぃぃ!!!!」
再び及び腰になるエクリに、俺は再度説得をするのだった。
親方の指示に従って黙々と作業をしていると、見慣れない男が現れた。
「お前が新しく入った機関士か?」
「そうだが」
「ハッ……なかなかいい面構えをしている」
なんだアンタは。そう言おうとしたところで、ゴリとサルの手が止まった。
「なっ……」
「デストラーデ……様」
「なに?」
こいつがデストラーデ海賊団の頭領、デストラーデか。
年こそ俺と大差ないが、纏う覇気はたしかにタダ者ではない。
俺が警戒しているのを感じたのか、デストラが軽く手を上げた。
「そう構えるな。最初こそ捕虜だったが、今は俺の仲間だ。……違うか?」
「……そうだな」
「だったら、過去のことは水に流して、俺に尽してくれ」
和解の証とばかりにデストラーデが手を差し伸べる。
その手をとると、俺はかねてから気になっていたことを尋ねた。
「なあ、ボス。ひとつご教示願いたいんだが……」
「言ってみろ」
「普通、海賊ってのは多くて20隻程度の船しか持てないらしい。規模の大きさに比例して、警備隊やら帝国軍に目をつけられやすくなるからな……。
だが、ボスは100隻単位の船に、帝国軍にも劣らぬ精鋭を揃えていると聞く。
帝国軍や警備隊、冒険者にも狩られずこれだけ大規模な海賊団を作るなんて、誰にでもできることじゃない」
「わかってるじゃないか、お前」
俺におだてられデストラが得意な顔をする。
「だが、一つ解せないことがある。これだけ大規模な戦力を持ちながら、なぜ冒険者にも帝国軍にも討伐されずに生き残っている」
「ちょっ……!」
「バカ野郎っ……!」
慌ててゴリとサルが止めに入る。
「す、すいやせん。コイツ、まだ新人なもんで……」
「こンのバカ野郎が……! デストラーデ様に向かってなんてことを……」
俺を叱責しようとするゴリとサルを制し、デストラーデが考えるような仕草をした。
「なぜ生き残ってるか、か……。いい質問だ」
俺に歩み寄ると、そっと口を寄せた。
「……俺は運がいいんだ。誰よりもな」
「……なに?」
それだけ言い残し、デストラーデは機関場をあとにするのだった。
一連の話を聞いたエクリが、拍子抜けといった様子で息をついた。
「なあんだ。……じゃあ、結局デストラの秘密はわからずじまいじゃない」
「そうでもないぞ」
なぜはぐらかしたのか。
「普通、冒険者に向かって『どうして強いんだ?』って尋ねたら、船の性能やら本人の腕前やら自慢されるだろ」
「それもそうね……」
「『運が良かっただけだ』、なんて言うヤツは自分を謙遜してるか……」
「何かを隠している……ってこと?」
エクリの推測に頷く。
「わざわざはぐらかしたのは、探られたくない腹があるからだ。……それこそ、知られたら一発で逆転されそうな秘密があるとかな」
いずれにせよ、デストラーデの秘密を掴めれば、懸賞金に大きく近づくことができるのは間違いなさそうだ。
俺が思案していると、エクリがため息をついた。
「シシーに訊ければ話が早かったのに……。電波がないから連絡とれないし……」
やはりというか、海賊船だけあって、外部との通信が制限されていた。
不用意に外と連絡が取られては、位置情報や内部の情報が漏洩してしまうため、考えてみれば当然のことではある。
とくに、人質を勧誘してメンバーを増やしている海賊であれば、末端を信用できないのはなおのことだ。
「こういう時こそ、あいつの出番だな」
次の方針を固めると、同じく潜入しているライのところへ向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます