第29話 潜入
数日前。
改めて打倒デストラーデ海賊団の意思を告げると、案の定エクリが難色を示した。
「デストラーデを倒すのはわかったけど、どうやって倒す気? 戦力だって負けてるし、第一アイツらがどこにいるのかさえ掴めてないのよ?」
デストラーデが高額の賞金首になったのには、わけがあった。
通常、海賊は規模が大きくなるにつれ、行動が目立つようになり、討伐されるリスクが高くなっていく。
しかし、デストラーデ海賊団はそうはならなかった。
クランに匹敵する戦力を保持していながら、それとは相反して巧妙に逃げ隠れを続けている。
組織力と隠密性の両立。それがデストラーデが高額賞金首とされる
「シシー」
『こちらはデストラーデ海賊団が行なったと思われる略奪、及び襲撃の一覧です。
これらの襲撃ポイントをマップに表示します』
映し出された星間マップ上に、赤い点が並んでいく。
そのいずれもが、中心地からほど遠いところに位置していた。
「これって……」
「……つまり、ヤツらを捕まえるには、警備隊や帝国軍の目が届かないような辺鄙な場所を航行する船で、なおかつ美味しい獲物がある船を張ってればいいってワケだ」
「……それはわかったけど、どうやって倒す気? こっちはあたしの船とアンタの船が2隻に、イカロス100隻とロクに武装がない宇宙要塞が一つ。いくらドローンとハッキングがあっても、これじゃ勝負にならないわよ」
「誰が宇宙船で戦うと言った?」
「えっ!?」
「艦戦で勝ち目がないなら、別の方法で倒せばいい」
元海賊の部下たちの証言によれば、海賊に捕まった一般人の末路は大きく三つある。
奴隷として売られるか。
身代金と引き換えに取引されるか。
能力や人柄を見込まれてスカウトされるか。
「機械弄りは得意分野だからな。機関士って言っとけば、向こうも勧誘したくなるだろ」
嫌な予感がしたのか、エクリの顔が青ざめていく。
「…………待って。まさか、それって……」
「今からデストラーデ海賊団に捕まりに行くぞ」
ダゴダ号の乗客たちは海賊の船に乗せられると、その多くが船内の檻に繋がれた。
もっとも、俺を含む海賊にスカウトされた者はある程度の自由が効いていたのだが。
不安な表情を見せる乗客たちを尻目に、エクリがこっそりと耳打ちした。
「潜入したのはいいけど、どうやって倒す気? ここまでやったからには、何か作戦があるのよね?」
「これから考える」
「ちょっ……!?」
「ついたぞ」
船から降ろされると、小型艇に乗り換える。
しばらくすると、広大な宇宙にポツリと浮かぶ巨大な船が見えてきた。
「あれは……空母か」
「そ、そんなものまで持ってるの……!?」
「帝国軍でも手を焼くってのも、あながちウソじゃねぇのかもな……」
俺、エクリライが三者三様の反応を見せる中、モヒカンの海賊が宇宙に浮かぶ空母を指差した。
「あれがオレたちの本拠地、宇宙空母アトランティス。今からお前らが働く場所だ。
言っとくが、ボスにブチ殺されたくなきゃ、妙な気を起こすんじゃねーぞ」
俺たちに釘を刺すモヒカン海賊に、ライが虚勢混じりの笑みを浮かべた。
「へへ、そんなにヤバいのかよ、デストラーデってのは……」
「あれを見ろ」
アトランティスの内部。捕虜や人質を収容するものと思しき牢屋の一室に、半裸の男が鎖に繋がれていた。
拷問を受けたのか、身体には生々しい傷が目立っている。
「自分に歯向かうやつには容赦しないからな、ボスは。ああなりたくなきゃ、お前らも気をつけることだな」
俺とエクリが機関室に連れられると、サル顔の男とゴリラ顔の男が出迎えた。
「オメェらが新入りか」
「へへへ、活きが良さそなのが入ってきたじゃねーの」
「ひぃぃぃぃ」
突然声をかけられ、驚いた様子で俺の後ろに隠れるエクリ。
エクリを置いて、俺は新たな職場の住民に挨拶をした。
「俺はカイン。こっちがエクル。これから世話になる」
「おう、肩揉めや、新入り」
「へへ、酒持ってこいや、新入り」
言いなりになるのは面倒だし、断るのも後々面倒そうだ。
さてどうしたものかと思案していると、機関場の奥から壮年の男が現れた。
「新入りをイビってんじゃねーぞ、サル、ゴリ」
「お、親方!」
「違うんです! これは……」
サルとゴリが慌てて俺から離れる。
「あんたがここの機関場を取り仕切っているのか。よろしく、親方」
「……………………」
親方と呼ばれた男は俺とエクリを一別すると、すぐに仕事に戻って行った。
……どうやらこの機関場には、面倒なやつしかいないらしい。
立ち尽くす俺とエクリに、ゴリが手招きした。
「新入り、テメェの仕事はこっちだ」
「待て。まだデストラ……ボスに挨拶をしていないんだが……」
「お前みたいな下っ端が、いちいちボスが会えるわけないだろ」
「それもそうか……」
倒す前に一度顔を拝んでみたかったが、サルの言うことももっともだ。
デストラーデに会うのはあとにして、俺は作業に戻るのだった。
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