第27話 暗雲

 冒険者ギルドにやってくると、受付嬢に今月分の利息を渡した。


「はい。それでは、3億1500万ゼニー、たしかに頂きました」


 金の入ったケースを受け取ると、受付嬢が金庫にしまう。


「3年で90億全額返済すると聞かされた時はさすがに驚きましたが、今なら納得です。このペースで業績が伸びているなら、たしかに3年で完済できそうですね」


 受付嬢がにこやかに微笑む。


 事実、借金の支払いに苦労する冒険者も少なくなく、利息の支払いが滞る者も多いのだという。


「……それにしても、驚きましたよ。カイルさんは冒険者としての腕だけじゃなくて、まさか商才まであったなんて……」


「俺はただの機械屋だ。趣味で始めた機械弄りが、たまたま儲けに繋がっただけだ」


「この様子なら、来月分のお支払も心配いらなそうですね。わかっているとは思いますが、もし借金を踏み倒したら……」


「ケツの毛まで毟りとる、だろ。わかってるよ」


 何度目かの脅し文句に辟易しながら、受付嬢を制した。


「心配しなくても、今回の取引が完了すれば、アホみたいに利益が得られる。……なんせ、宇宙船100隻だからな」






 目的地である冒険者クラン──【白の牙】の拠点に到着すると、【白の牙】のメンバーと思しき冒険者が出迎えた。


「頼まれていたイカロス100隻、たしかに用意した。確認してくれ」


【白の牙】の冒険者たちに船を見せるも、どういうわけか気まずそうに顔を見合わせるばかりだ。


「どうした。何をためらっている」


「いや、その……」


「?」


 歯切れの悪い様子に違和感を感じていると、奥から別の男が現れた。


「あー、それなぁ……」


「アラン団長……」


 冒険者たちが道を空ける。


 団長? この男がか?


「いらなくなったんだよ、おたくの船」


「……なに?」


「他のとこにも注文出しててさ。そっちのが先に納品したから、おたくンとこから買わなくてよくなったってわけ」


「……注文を取り消すってことか? それなら、キャンセル料がかかるぞ」


 俺がキャンセル料ことを告げると、アランがため息をついた。


「そこはさぁ……多目に見てくれねェかなぁ……。船が壊れたらまたそっちに注文するかもしれねェんだし、うちからの注文がなくなったらおたくンとこも困るだろ?」


 俺の目の前まで歩み寄ると、息の届く距離まで詰めてくる。


 ……ナメているのだ。圧をかければ、こちらが何でも言うことを聞くだろう、と。


 ポケットに手を入れ、俺はアランを睨みつけた。


「困らん。約束を反故にするようなヤツは客じゃない」


「…………ふーん。まあいいケド。どっちみち、キャンセル料は出せないから」






 アナザーヘブンに戻ると、エクリやライに事の次第を説明した。


「いきなり注文をキャンセルされたって……」


「おいおい……どうするんだよ、借金の支払いは……!」


 残る借金は74億ゼニー。返済にはイカロスの販売で得た利益をあてるつもりだったため、完全にアテが外れてしまった。


「前金は貰ってるけど……。こんなんじゃ焼け石に水じゃない……」


 エクリが呆然とつぶやく。


「値引きして……ううん、とにかくなるべく値段をさげて、なんとか100隻全部売り捌かないと……」


「値引きはしない」


「なんでよ! こうでもしないと、借金が……」


「無闇に値引きして売るってことは、将来の売上を減らすってことでもある。今は持ち直すかもしれないが、長い目で見ると損の方が大きい」


 現状、これほどのAI搭載艦はうちでしか販売していない。


 ある意味市場を独占しているだけに、値引きをしては将来売れたかもしれない分を減らすことになる。


「でも……」


「それに……見てみろ」


 執務室の窓からドックを見やる。


 そこでは、元海賊の部下たちが下取りで集めた船を解体していた。


 仕事自体は重労働であるものの、部下たちはどこか活き活きと働いている。


「あの船は、あいつらが寝る間も惜しんで造ったんだ。それを安売りするってことは、あいつらの仕事を安く買うってことだろ」


 ライの顔が曇る。


「でもよ……借金返せなかったら、本末転倒だぞ」


「まったく救いがないわけでもないだろ」


 俺にはシシーやエクリ、ついでにライがいる。シーシュポスもある。部下の元海賊に、宇宙要塞もある。


 そして、AI搭載船イカロスが100隻もある。


「これだけ船があるんだ。フルで使えば、海賊狩りだろうが怪獣狩りだろうが、何でもできるだろ」


 この先を想像したのか、エクリの顔が引きつった。


「まさか……」


「俺たちは冒険者だ。危険なことだろうが何でもやって金を稼ぐ。……異論はあるか?」

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