第21話 工事中

 要塞の工事から半年が経過し、ある程度全体が完成した。


 既に内部の気密は保たれているため、宇宙服なしでの工事が可能となっており、区画そのものも完成したため、残るは内装のみとなった。


 配線や通気口を敷設していると、海賊が巨大な機械を運んできた。


「旦那、反物質エンジンはどっちに運ぶんで?」


「この通路を右に曲がってまっすぐ行ったところ。突き当りの部屋だ」


「わかりやした!」


 重力を10分の1に設定したおかげで、海賊が軽々と運んでいく。


 その脇で、エクリが所在なさげにたたずんでいた。


「……どうした。仕事が終わったのか?」


 俺が尋ねると、その場を別の海賊が通りかかった。


「仕事が出来ねえんで、外したんすよ。そいつ」


 海賊の言葉にエクリが沈んだ。


「しょうがないじゃない……あたし、不器用だし……」


 不器用なのは知っていたが、現場で働いていた海賊たちからとうとう戦力外通告が出たらしい。ガックリと項垂れている。


「気にするな。エクリが不器用なのは初めから知ってる」


「なによ……アンタまで……」


「だが、適材適所という言葉もある。あいつらには出来なくて、エクリにしかできないこともあるだろ」


「なによ、あたしにしかできないことって……」


「そんなもん、自分で見つけろ。……だが、少なくとも冒険者は向いてるんじゃないか?」


「えっ……!?」


「俺がここまでやってこれたのは、間違いなくエクリのおかげだろ。あいつらは海賊としてしくじったが、エクリは冒険者としてしくじったわけじゃないだろ」


「カイル……!」


 俺の言葉に、エクリが目を輝かせた。


「あたし、頑張る! あたしにしかできないこと、探してみる!」


 そう言って、エクリはどこかへ向かって駆け出していくのだった。


 何やらやる気を出したエクリの背中を見送っていると、シシーが尋ねてきた。


『エクリにしかできないこととは、いったい何のことですか?』


「借金だ。俺もライも冒険者ギルドから金を借りたが、あいつだけまだ借金してないからな。Bランク冒険者なら1億ゼニー貸してくれるらしい。それだけあればかなり余裕ができるし、内装をもっと豪華にできる」


『果たして、うまくいくでしょうか……』






 それから数日後。エクリが建設途中の宇宙要塞に顔を出した。


「久しぶりだな。こっちにも顔も出さないで、何やってたんだ?」


 俺が尋ねると、エクリがふふんと薄い胸を張った。


「見なさい、これを!」


「これは……」


 エクリの背後には、10人近い人がいた。見慣れない顔ぶれ。

 みな冒険者らしく装備は不揃いだが、やる気にみなぎっている。


「冒険者ギルドで手の空いてる人はいないか募集をかけたの。……たしかにあたしは不器用だけど、これくらい顔は効くんだから!」


「エクリ……!」


 資金的に不安が残ることに変わりはないが、これならば建設も大幅に加速する。


 いち早く建設が終われば、その分早く業務を始められるため、利益も上げられるというものだ。


 まさか、エクリがそこまで考えていたとは……。エクリに対する評価を改めないといけないかもしれない。


「見直したぞ。まさかこんなに人手を集めてくるとはな……」


「へへん。あたしにかかれば、ざっとこんなもんよ」




 新たに冒険者を加えたおかげで、宇宙要塞の建設は大幅に加速した。


 雑務はすべて彼らに任せれば、現場での指揮やデスクワークに専念できるというものだ。


 この日も書類をまとめていると、エクリがやってきた。


「カイル、ちょっと……」


「どうした」


 言いにくいことなのか、もじもじとその場に立ち尽くす。

 やがて、意を決したのかエクリは口を開いた。


「えっとね、あいつらに渡すお給料が欲しいんだけど……」


「……給料?」


「言ったじゃない、ギルドで募集をかけたって。それで……」


 俺は働く海賊たちにチラリと目をやった。


「もともと、連中を使って人件費を浮かせるつもりだったんだ。ここまで人件費がかさむなんて、想定していない」


「それじゃあ……」


「エクリ、今すぐ海賊狩りに行くぞ。手っ取り早く稼いで、払うしかないだろ。給料を」


荷物をまとめてシーシュポスに向かおうとすると、エクリが俺の服の裾を掴んだ。


「…………ゴメン、その……」


「謝るな。エクリのおかげで作業が捗ったのは事実だからな」


 俺の言葉に、エクリの顔が少し明るくなった。


「……まあ、人を雇う前に事前に相談してほしかったが……」


 そうして、俺たちは急ぎ海賊狩りに赴くのだった。

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