第20話 工事と小惑星の調査

 冒険者ギルドから資金を調達することに成功すると、宇宙要塞の着工が始まった。


 必要となる資材の調達や発注をしながら、現場で海賊たちを指揮していく。


「まずは外側を塞いでいけ。中の気密が保てるようになったら、宇宙服なしで作業できるからな」


 無重力で作業できるとはいえ、宇宙服を着たままではやはり動きにくい。


 作業の傍ら、海賊たちが文句を垂れていた。


「くそっ……解体だけじゃなく、溶接までやらせるのかよ……」


「でもよぉ、ナノマシンが乗っ取られてるし、そもそもオレら海賊だから通報もできないし……」


「るせぇ! ここまでコケにされたんだ。文句の一つでも言ってやらねえと、俺の気が済まねぇ!」


 海賊の一人が俺に忍び寄る。


「おい……」


「サンソンか、どうした」


「あっ、俺の名前……」


 名前を憶えられているとは思っていなかったのか、サンソンが意外だといった顔をした。


「当然だろ。今まで一緒に作業して、寝食を共にしてきたんだ。……それで、どうした。何か言うことがあったんじゃないか?」


「いやぁ、その……」


 要領を得ない様子でもじもじとするサンソン。

 この様子では、大した話ではなかったのか。


 それなら、先に俺の話からさせてもらおう。


「……ああ、そうだ。宇宙要塞が完成したら、お前らにも個室をやるよ」


「えっ……いいんすか?」


「その代わり、手ェ抜くなよ。溶接ミスって自分の部屋が真空になっても知らないからな」


「旦那……!」


 俺からの話が済むと、サンソンは目を輝かせて作業に戻るのだった。


 ……結局アイツは何をしに来たのだろう。




 海賊と入れ替わりにエクリがやっていくると、ちらりと海賊たちの方を一瞥した。


「大丈夫なの? アイツらにも部屋あげるなんて約束しちゃって……」


「間取りは把握してるし、設計図もこの通りだ。宇宙要塞そのものの収容上限は1000人くらいだから全然余裕だろ」


 とはいえ、不安要素もなくはない。


 工事をしている間はデブリの解体は一切できなくなるため、ドローンで自動回収したデブリはそのまま回収業者に引き渡している。


 これだけで1日30万近い金を稼いでいるが、現状は出て行ってる金の方が多い。


 建設の監督をライに任せ、現場を離れようとすると、エクリに呼びとめられた。


「ちょっと、どこ行くのよ?」


「小惑星調査のクエストに行ってくる」


「はぁ!?」


エクリが素っ頓狂な声を上げた。


「なに考えてるのよ! 今は宇宙要塞を工事してるのよ!? アンタ抜きでどうしろってのよ」


「俺だけじゃない。エクリ、お前も行くんだよ」


 パーティーのクエスト共有画面を開いてエクリに見せた。


「1、2、3……30個!? そんなにクエスト受けたの!?」


「仕方がないだろ、受けたもんは」


脳裏に、先日の受付嬢との会話が蘇る。




 ――ここだけの話、利息を減らす裏ワザがあるんですよ。


 ――どうすればいいんだ?


 ――クエストをたくさん受けるんです。熱心にクエストを受けていれば、それだけで「返済の意思アリ」とみなされて、利息が減るんです。


 ――へぇ、いいことを聞いた。


 ――(まあ、受注したクエストを達成できなければ違約金が発生するんですけど)




「ということらしい」


俺の話に一応理解をしたのか、エクリが難しい顔をした。


「でも、30個なんて……。二人で分担しても、15個もあるのよ?」


「心配するな。そんなこともあろうかと、作業の合間にコイツを作った」


シーシュポスから取り出したそれを、エクリがまじまじと見つめる。


「これ……ドローン……?」


「新しく作った、スキャナータイプだ。高性能センサーを山ほど搭載しているから、小惑星の調査くらいならすぐに終わる」






エクリと共にクエストに出向くと、スキャナータイプのドローンで小惑星の表面や内部の調査を行なう。


ひととおり、小惑星の調査が終わると、エクリがうーんと画面の向こうで伸びをした。


『終わったー! あとはギルドに報告書を提出するだけね』


「穴埋め式のテンプレートを作っておいた。文体や文脈は考えなくても、空欄に穴埋めしていけば報告書が完成する」


『さっすがー! それじゃあ報告書を……って、あたしにばっか仕事させて、アンタは何やってるのよ』


「俺は俺でやることがあるんだ」


 VRゴーグルを装着すると、向こうでの作業に戻る。


 それを見て、エクリが呆れた様子でため息をついた。


『……どっからどう見てみても、VRで遊んでいるようにしか見えないんだけど』


「遊んでるわけじゃない。リモートワークだ」





 一方、建設中の宇宙要塞ではライが現場で指揮をとっていた。


 ――ただし、ナノマシンを乗っ取られ、俺に遠隔操作された状態で。


「おら、無駄口叩いてる暇があったらキビキビ働け!」


 ライの身体で檄を飛ばす傍らで、海賊たちがひそひそと話をする。


「Sランク冒険者だからって、調子に乗りやがって……」

「ああ、でも、仕事自体は旦那と同じくらい早いし、精確なんだよなぁ……」

「はぁ……腐ってもSランク冒険者ってところか……」


 海賊たちから複雑な視線を送られる中、ライは内心怒りに燃えていた。


(あンの野郎~~~!!! 他人ひとの身体勝手に使いやがって~~~~!!!! 戻ってきたら、タダじゃ済まさないからな……!)




あとがき

最近、副業の方が忙しくなってきたので、更新は不定期にさせていただきます。

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