第19話 借金
ライを引きずりながらコロニーを練り歩く。
「……で、どこに連れてく気だよ」
「金を貸してくれそうなところだ。……そうだな、銀行でいいんじゃないか?」
これにはライが猛反対した。
「おいおい、銀行はアウトだって!」
「なぜだ」
「知ってるだろ、俺のSランク冒険者って肩書きがペテンなことは。さすがに銀行を騙すのは無理だ!」
「だが、冒険者ギルドは騙せてただろ」
出会った当初、自身を冒険者の最高ランクとされるSランクと偽り、Sランクの特権を生かしてラウンジに入り浸っていた。
同じ要領で銀行も騙せると思ったのだが、どうも違うらしい。
「あれくらいが関の山だっての! むしろ、名義を貸すところまでよく通ったよ……」
ライが辺りを見回し小声でつぶやく。
「田舎の冒険者ギルドは騙せても、銀行のセキュリティは比じゃねぇからな。さすがにここで捕まるわけにはいかねぇ」
つまり、銀行は騙せないが、冒険者ギルドならば騙せると言っていることになる。
「……………………」
「……おい、何を考えているんだ?」
俺の顔を見て、ライはどことなく不安な顔をするのだった。
冒険者ギルドに入ると、馴染みの受付嬢のところにやってきた。
挨拶もそこそこに、本題に入る。
「お金を借りたい、ですか……」
受付嬢の言葉に、俺は頷く。
俺の記憶に間違いなければ、冒険者ギルドには冒険者支援の一環として金を貸すサービスがあったはずだ。
ランクによって借りることのできる金額は変動するが、Sランク冒険者であるライがいれば、上限まで借りることができるのではないだろうか。
そう踏んで、冒険者ギルドにまでやってきたのだ。
「新たな事業を始めるにあたって、まとまった金が必要でな……。さしあたって、100億ほど借りたい」
突如100億という大金を借りに来た俺たちを前に、受付嬢が顔を曇らせた。
ライが俺にこっそりと耳打ちする。
(おい、必要なマネーは40億じゃなかったのかよ)
(金は体力だ。あるに越したことはない)
どんなトラブルが起きようと、その場に金があれば大抵の問題は解決するのだ。
そういう意味では金はいくらあっても困らないもの。
ゲームでもHPに振っておけば大抵どうにかなるものである。
しかし、案の定というべきか、受付嬢が難色を示した。
「100億というのは、さすがに……」
「そうだよな。いきなりやってきてマネーを貸せっての自体、土台無理な話だわな」
そう言ってライが席を立とうとすると、受付嬢が止めた。
「いえ、お金を貸すこと自体はできるんですよ。ただ、ライさんの場合、かなり使ってしまっているので……」
「なに?」
俺と受付嬢の視線がライに集まる。
「ライさんはよくラウンジに入り浸ってましたからね~。ツケということで結構飲まれてましたし……」
「えっ!? あのお酒、タダじゃなかったの!?」
「無料なのは一杯目だけですね。二杯目からは有料です」
ライがその場に立ち尽くした。
「そうした今までの飲み代を諸々足すと、だいたい4億ゼニーくらいになりますかね」
「待て待て、オレはそんなに飲んでないぞ!」
「ライさんの場合、一度も利子を支払っていませんでしたからね~。悪質とみなされて、その分利子が高くなってるんですよ」
表示したウィンドウを操作して、画面をスクロールする。
「それと、今まで立て替えたスキルの購入費も合わせると、10億ゼニーくらいにはなりますね」
ガックリと項垂れるライに、俺がこっそり耳打ちした。
(俺と組んでよかったな。あのまま入り浸ってたら、今ごろもっととんでもない額になってたぞ)
(悪夢だ……)
呆然とつぶやくライ。
「あっ、ちなみにカイルさんにもお金を貸せますよ」
「なに……?」
受付嬢の話によると、ランクによって貸し出し金額が異なるらしい。
Sランクが100億、Aランクが10億、Bから下が1億、1000万、100万と続くのだそうだ。
「カイルさんはCランク冒険者なので、無担保で1000万ゼニーになりますね」
この世の終わりみたいな顔でライが尋ねた。
「……ちなみに、マネーを返せなかったら、どうなるんだ?」
「冒険者ギルドが総力を挙げて見つけ出します! お尻の毛まで毟り取って、それでもお金をご用意できなければ、タコ部屋送りになりますね」
「た、タコ部屋……?」
「最低賃金で最果ての小惑星を延々と採掘することになったり、宇宙カニ漁をすることになりますね。もちろん、逃亡できないようナノマシンにロックをかけますよ」
受付嬢の話を聞いて、ライが俺に耳打ちした。
(なあ、お前んとこの労働環境より、こっちのがマシなんじゃないか? 一応給料も出るみたいだし……)
(そんなにタコ部屋に行きたいなら、今ここでチクってやろうか? お前のSランクが嘘だってことを……)
ブンブンと首を振るライ。
ともあれ、必要なことはだいたいわかった。
「オーケー。俺が1000万ゼニー、ライが90億ゼニー借りよう」
俺が言い放つと、ライが耳打ちしてきた。
(ちょっ……聞いてなかったのか、今の話!?)
(聞いてたさ)
(だったら……)
(最悪返せなかったとしても、億単位の取り立てがいくのはお前の方だから、俺は問題ない)
「なっ……」
ライが絶句しているのを合意と受け取ったのか、受付嬢がニコリとほほ笑んだ。
「それでは、合わせて90億1000万ゼニー、すぐにご用意しますね」
予定通り金を借りることに成功すると、俺たちは冒険者ギルドをあとにした。
あとはこの金を元手に、宇宙要塞の建築にとりかかるだけである。
どのような宇宙要塞を作ろうか思案していると、シシーが口を開いた。
『宇宙要塞の名義人はライですが、実質的な権限を持っているのはカイルです。仮にライが破産した場合、カイルに負債が及ぶ可能性があります』
「かもしれないな」
冒険者ギルドとしても、確実に借金を回収するべく、何らかの手を打つことだろう。
そうなれば、ライの負債が俺にのしかかってくる可能性は高い。
『もしも借りたお金を返せなければ、その時はどうするつもりですか?』
「そんなの決まってる。シシーと一緒に宇宙の果てまで逃げてやるさ。……来てくれるだろ?」
『もちろんです。カイルのいる場所が、私のいるべき場所ですから』
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