第11話 決着

 海賊船の砲撃がエクリの船に浴びせられた。


「ひぃぃぃぃ~~~~」


 10隻の船から一斉に砲撃され、みるみるうちにシールドが溶けだしていく。


 シールドの表面にはヒビや傷が目立ち始め、今にも破れそうだ。


「そ、そうだ! コイツを盾にして……」


 カイルがハッキングしたという海賊船を操作し、自身の船を守るように展開する。


 こちらはなかなかスペックの高い船らしく、シールドの性能も非常に安定している。


 他の船の陰に隠れつつ、ひとまずシールド回復に集中することにした。


 回復し次第の砲撃の合間を縫って反撃に出るも、多勢に無勢。戦況をひっくり返すほどの火力は出せない。


「うぅ……はやくあたしを助けなさいよ、バカぁ……」


 なぜか海賊にまったく狙われていない仲間――カイルの船を見やり、エクリは一人ごちるのだった。






『ハッキングが完了しました。管理画面を表示します』


 シシーのハッキングが終わると、新たにハッキングした海賊船の管理画面が表示された。


 手に入れた海賊船のスペックを見ようとしたところで、エクリの通信が割り込んできた。


『ちょっとぉ!』


「どうした」


『どうした、じゃないわよ! いま敵に狙われまくって大変なの! はやく助けてよぉ!』


「……だそうだ」


『新たにハッキングが完了した海賊船の指揮権を、エクリに委譲します』


 海賊船の管理画面が消えると、俺は一息ついた。


「よし、これで向こうもなんとかなるだろ」


『なんとかなるか、バカぁ!』


 大声で怒鳴られ、俺はたまらずヘッドフォンを外した。


『一度に複数の船を同時に操作できるわけないでしょ! あたし、腕が2本しかないんだし、自分の船で精いっぱいよ!』


 ……腕が2本でも同時に操縦くらいできるだろうに。


 とはいえ、このままエクリの船が撃沈されては寝覚めが悪い。


「……シシー、A1からA12を自動迎撃モードに。ハッキングした船の指揮権をこっちに移してくれ」


『了解しました。管理画面を開きます』


 ドローンの操作画面が簡易表示となり、代わりに海賊船の操作画面が表示される。


「こんなの、ゲーミングコントローラーがあれば一瞬で操作できるだろうに……」


 ひと際大きな海賊船を操作すると、敵の真っただ中に突っ込ませる。


 敵のうち、一隻の針路をふさぐように止めると、火力に任せて砲撃を開始する。


 連射可能なコントローラーで砲撃を維持している間、別の船を操作する。


「……っと、まだエクリが狙われてるな」


 派手な船を操り、今度は近くの海賊船に体当たりさせた。


 シールドとシールドが正面からぶつかり、激しい火花が散る。


 船体で強引に動きを止めている間、ヘイトを集めるべく他の船に砲撃を開始する。


『新たな船のハッキングに成功しました。管理画面を表示します』


 そうこうしているうちにシシーのハッキングが完了したらしい。


「ナイスだ」


 これで、こちらはハッキングした船を含めて6隻。相手は8隻。


 当初は6倍あった戦力差から、同程度に縮めることに成功するのだった。




 味方の船を4隻も奪われ、海賊たちの心は折れかけていた。


「お頭、オレ、もう……」


「わぁってるよ。……総員、撤退する! 死にたくねぇやつから引き揚げろ!」


 海賊の頭領が部下に命令を出すと、一目散に逃走を図るのだった。




 遠ざかっていく海賊船を見て、画面の向こうでエクリが呆然と呟いた。


『海賊が、引き揚げていく……』


『敵の戦意は完全に喪失したものと思われます。追撃しますか?』


「いや」


 海賊船の管理画面には、兵装やスペックの他、搭乗員数も記載されていた。4隻の海賊船には、あわせて22人の海賊が乗船してる。


「……十分だろ、これだけ居れば」


 動く檻の中に囚われた海賊たちに本隊が逃げたことを告げると、彼らは一様に戦意を喪失するのだった。

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