第10話 海賊狩り

 冒険者ギルドで海賊討伐の依頼を受けると、海賊が密集しているという星域にやってきた。


 ここら一帯には小惑星が点在しており、隠れることのできるスペースは多い。


 なるほど、ここならすぐにでも海賊に出くわしそうだ。


『ねぇ……海賊を捕まえるってことは生け捕りにしないといけないのよね?」


 普段は海賊狩りに乗り気なエクリが、今回はやけに弱気になっていた。


「そりゃあそうだ。じゃなきゃ、何のために海賊狩りに行くのかわからないからな」


 俺の言葉を聞いて、エクリは物憂げにため息をついた。


「あたし苦手なのよね……そういう細かいの』


「心配するな。時間はかかるが、捕らえるすべはある」


 話しているうちに、海賊の反応をキャッチした。


 現場に向かうと、海賊たちが戦闘態勢となった。


 こちらが2隻だとわかると、海賊たちは包囲殲滅陣を敷いてくる。その数、12隻。


 中古の軍艦や型落ちの巡視船で構成されているとはいえ、単純な戦力差は6倍である。


『ね、ねぇ……思ったより数が多いっていうか、勝てる気がしなくなってきたんだけど、大丈夫なの……? ここは一時撤退して、体勢を立て直した方がいいんじゃない?』


「言っただろ。時間さえあればどうにかなるって」


 通信を切ると、シシーに命令を出した。


「A1からA12まで出撃させろ」


『A1からA12まで展開。自動迎撃モードに移行しますか?』


「いや、手動でいく。シシーは本命の方を頼む」


『了解しました。ターゲットを選択してください』


「そうだな……」


 画面いっぱいに広がる海賊船団を眺める。帝国軍のような正規艦隊ではないため装備がバラバラだ。


 大きい船から小さい船。派手な船から古びた船まで様々ある。


 その中に、ひと際大きく、質のいい装備をした船を発見した。


「あれでいいだろ」





 包囲する海賊を嘲笑うように、展開されたドローンが攻撃をしてくる。


「ドローンか……ちょこざいな……!」


 海賊の頭領が歯噛みした。


 どういうわけか、攻撃を当てることができない。


 こちらが砲身を向けるのに合わせて旋回し、他の海賊船を盾に攻撃をかわしてくる。


 シールドのおかげで損傷はないものの、海賊船同士の同士討ちを誘発されているような状況だ。


「獲物は2隻だぞ……? どうして落とせない……!」


 その時、部下から急ぎの報告が入った。


『たっ、大変です! ペルセウス号が敵に乗っ取られました!』


「なっ……」


 予想外の報告に、理解が追い付かない。


 敵がこちらの船に乗り込む様子はなかった。物理的に船に触れる機会は、ただの一度もなかったはずだ。


 では、いったい敵はどうやって乗っ取ったというのか。


「まさか、ハッキングしたのか……!?」






 シシーのハッキングが完了すると、目の前に海賊船の操作画面が表示された。

 これでこちらの戦力は、まるまる1隻増えたことになる。


『目標のハッキングが完了しました。次の船をハッキングしますか?』


「そうだな。次は……あの派手なのがいいな」


『了解しました』


 シシーが海賊船のハッキングに専念している間は、シーシュポスの維持も最低限しか行えない。エンジンや発電機はプログラムに任せてある程度自動で管理できるが、ドローンはそうはいかない。


 そのため、必然的に俺がドローンを操縦しなくてはいけないのだが、ここに新たに手に入れた海賊船まで加わるとなると、話が変わってくる。


 既に12機のドローンを操縦しているのだ。

 他の船まで操縦する余裕は無くなってくる。


「エクリ、手ェ空いてるか?」


『空いてるわけないでしょ! いま海賊船に狙われまくってるんだから!』


「オーケー、じゃあハッキングした海賊船の指揮権をそっちに渡す。有効に使ってくれ」


『はぁ!? ハッキングって、アンタ何やって……』


 抗議されそうだったので通信を切ると、エクリの船に乗っ取りの完了した船の管理画面を送った。


「シシーがハッキングしてる間、こっちもなんとかするか……!」






「た、大変です! 今度はアンドロメダ号が乗っ取られました!」


「なんてことだ……」


 新たな報告に、頭領が頭を抱えた。


 敵はこちらの船を2隻も奪い、着々と自陣営の戦力を拡張している。


 一方、こちらは船を奪われた分戦力が低下し、すでに敵の包囲さえ危うくなっていた。


「オレ達の船を奪って戦力差を埋める、か……まるで将棋だな……」


「どうしますかい、お頭。このままじゃ、全部乗っ取られちまいますぜ」


「……いくらこちらの船を奪おうと、それを統率する“王”がいるはずだ。王さえ取れば、戦局は覆る……!」


 戦況を打開する術は、もはやこれしか残されていない。


 方針が決まると、全ての海賊船に通達した。


「ドローンに構わず、敵の船だけ攻撃しろ! こっちの船が獲られる前に、カタをつけるぞ!」


「それで……どっちなんですかい? うちの船をハッキングしてるのは……」


 元々、敵の船はわずか2隻だ。


 どちらかが作戦の中核を担っており、ハッキングでこちらの戦力を削っているのは間違いない。


 確率は2分の1。ドローンを使って積極的に攻勢に出ている方と、乗っ取った船を操り逃げ回っている方。

 はたして、どちらを狙ったらいいものか……


「そんなもん、決まってるだろ。俺たちの船を盾に、うろちょろ逃げ回ってるやつだよ――」


 そう言って、頭領は迷わずエクリの船を指さすのだった。

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