第9話 宇宙のごみ拾い
新たなクエストを受けるべく、俺たちは冒険者ギルドにやってきていた。
商船の護衛でそれなりに金が手に入ったが、ドローン一機を失ったのは大きい。
護衛の報酬が150万ゼニー、シールド発生装置の修理費が100万ゼニー、海賊討伐の報奨金が500万ゼニーが手に入った。
一応収支は黒字だが、燃料費や損傷次第ではマイナスに転ぶ可能性も十分にある。
とくに、もう一機ドローンが破壊されれば、収支は厳しいことになっていただろう。
それだけに、今回は慎重にクエストを選んでいた。
掲示板に掲載されたクエストを眺め、相棒に尋ねる。
「……シシー。おすすめのクエストはないか?」
『デブリの回収クエストがいいでしょう。船体損傷のリスクが少なく、安定した収益が見込めます』
シシーにオススメされたクエストに目を移す。
どうやら回収したデブリの重さで報酬が決まるらしく、平均すると1日1万5千ゼニー稼げるとのことだ。
「オーケー、それにしよう」
俺の分とエクリの分を受注すると、宇宙に漂うゴミを回収しに行くのだった。
当該宙域にやってくると、エクリが張りきった様子で通信してきた。
『それじゃあ、じゃんじゃん回収するわよー!』
効率を考え俺とは別方向に向かうエクリ。
俺も回収作業に移ろうとしたところで、シシーが口を開いた。
『通常は船体に付属したロボットアームでの回収作業となりますが、カイルは多数のドローンを保持しています。ドローンでの回収を行えば、より多くのデブリを回収できることでしょう』
流石はシシー。相変わらず頼りになる。
「……そうだな。回収は全部ドローンに任せるか」
ドローンの操縦をオートに設定して、空いた時間に溜まっていたゲームを消化するのだった。
2時間後。シーシュポスの倉庫には回収されたデブリが溜まっていた。
集められたのは、船体の破片から遺棄された人工衛星まで様々だ。
比較的綺麗な状態のパーツを拾い上げ、まじまじと眺める。
「……これも捨てられているのか。少し手を加えれば、まだまだ使えそうなのにな」
俺は回収されたデブリを眺め、ぽつりと呟くのだった。
エクリと合流すると、一向にデブリから離れようとしない俺を見て、
「ねえ、なにしてるのよ? 早くデブリを処理しましょ?」
エクリが業者に引き取ってもらおうと急かしてくる。
通常、回収したデブリの処理は冒険者に一任されるため、通常は廃品回収の業者に引き払われるのだという。
「いや、クズ鉄同然で引き払うには惜しい。使える部品がないか、バラしてみる」
「そんな面倒なことするの? そういうのは業者の仕事でしょ?」
俺は手にした電子基板を見せつけた。
「コイツなんか、レアアースの宝庫だぞ。金にアダマント、オリハルコンまで入ってる。部品としてはもちろん、資源としても価値があるぞ」
エクリの回収した分を奪うと、デブリの分解作業を始めるのだった。
使えるものを修理しては、中古品やジャンク品として中古ショップに売却し、価値の高そうなものはオークションに出品する。
そうして捻出された利益の明細を見て、エクリが唖然とした。
「うそ……デブリの回収だけで、こんなに儲かっちゃうの……!?」
当初の想定では1日1万5000ゼニーほどの報酬だったのが、この日だけで10万を超えている。
回収作業を丸々ドローンに委託したため大量のデブリを回収できたが、まだ改善の余地がある。
「ドローンの数を増やして……いや、いっそ専用ドローンを組めば、もっと効率的に回収できるな……」
現在は俺の持つ12機のドローンを運用しているが、今後は20機、30機にまで増やしてみてもいいかもしれない。
だがそうなると、今度は集められるデブリに対し、解体する手が足りなくなってしまう。
今は俺一人で足りているが、今後デブリの回収が加速度的に増えていくとしたら……
俺が考え事をしていると、エクリが顔を覗き込んできた。
「……どうしたのよ。ボーっとしちゃって」
「エクリ、次からお前も解体しろ」
「えっ!?」
エクリが琥珀色の目を白黒させた。
「で、でも……あたし機械のこととかよくわからないし……不器用だし……」
「そうだな」
「そうだなって……ちょっとはフォローしなさいよ!」
エクリが頬を膨らませる。
「やり方なら後で教える。別に難しいことじゃないぞ。ドライバーがありゃ誰でもできる」
翌日。エクリを連れて再びデブリ回収のクエストを申し込んだ。
今度はエクリの分の回収もドローンに一任すると、運ばれてきたデブリを解体していく。
慣れた手つきで解体を進めていく俺の脇で、エクリが難しそうな顔をした。
「……あたし、カニ食べるの苦手なのよね……。なんていうか、殻から身を取るのが苦手っていうか……細かい作業が性に合わないっていうか……」
「いい機会だ。コイツの解体に慣れてくれば、カニも食べられるようになるだろ」
「……ねえ、これもドローンで解体するわけにはいかないの?」
「リンゴを潰すのと皮を剥くのは別物だろ」
解体作業自体は楽しいが、いつまでも解体ばかりやっているわけにはいかない。
第一、この解体作業だけで1日の大半が持っていかれるというのも、良いことではない。
何か、いい方法がないものか……
考え事をしていると、不意にエクリが頭を抑えた。
「ううっ……細かいことしすぎて頭が痛くなってきた……。あ~、早く海賊狩りに行きたいなぁ……」
「……それだ!」
「えっ!?」
「捕まえた海賊に解体させるんだよ」
「解体させるったって……。素直に言うこと聞くわけないでしょ、あのならず者たちが……」
エクリの心配はもっともだが、俺に限ってその心配はいらない。
海賊たちを捕らえたのち、体内のナノマシンをハッキングしてしまえばいいのだ。
身体の自由を奪い、必要最低限の知識とスキルを強制インストールさせれば、即席解体士の完成である。
人手が増えればその分ドローンの数を増やしやすくなり、俺にも別のことをする余裕が生まれる。
そうして空いた手でドローンを作り、そのドローンが材料となるデブリを回収してくる。
まさに好循環。うまくいけば、何もせずに金を手に入れられるのではないか。
「行くか、海賊狩り……!」
次なる目標を宣言すると、エクリが目を輝かせるのだった。
あとがき
粗大ごみで捨てられた家電を拾って、使えるものは修理し、あるいはパーツごとにバラしてメ〇カリやHARD 〇FFで売る、みたいな感じです
この作品が面白いと思った方は、フォローや下記★で評価も頂けましたら嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます