幕間 エクリの受難

 エクリはカイルに招待され、カイルの宇宙船、シーシュポスにやってきていた。


 先日冒険者ギルドに置いてけぼりにしたことは、まだ許したわけではない。


 ないのだが、カイルに「紹介したい人がいる」などと言われたからには、行かないわけにはいかないだろう。


「紹介するよ。俺の相棒のシシーだ」


「あ、相棒……!?」


『シシーです。どうぞよろしく、エクリ』


「えっ、あ、あたしの名前……」


 カイルの言葉に理解が追い付かない。


 相棒? あたしじゃなくて、この人工知能が、カイルの相棒?


 というか、いつの間に名前まで……


「あっ、えっと……あたしはカイルとコン……パーティーを組んでる、エクリよ。よろしくね、シシー」


『よろしくお願いします』


「えっと、あたしのことは……」


『ご心配なく。冒険者となる前から、カイルとはすべての情報を共有しています』


「そ、そう……」


 エクリが明らかに気落ちする。


 カイルと目があうと、ちょいちょいと手招きした。


「ねえ、ちょっと……」


「なんだよ」


 シシーから少し離れたところまでカイルを招くと、ひそひそと耳打ちする。


「その……シシーとはどういう関係なの?」


「どうって……さっき言っただろ。相棒だって」


「そうだけど……ちょっと距離が近すぎるんじゃない? 名前からして女性でしょ、シシーは」


「そりゃ……そうだな。そういうことになるのかな」


 人工知能に性別があるかわからないが、とりあえず頷いておく。


「でしょ!? 恋人でもないのに、何でも知ってるなんてヘンよ。もっと節度を持って――」


『カイルとの会話はナノマシンを通じてすべて私が把握しています。内緒話をしていても意味はありませ――』


 二人の言葉に割り込むように、カイルは「うーん」と唸った。


「でもなぁ……シシーは家族みたいなもんだし……」


「かっ……」


『家族……』


 エクリが愕然とし、シシーがどこか照れと困惑が混ざった様子でつぶやく。


 エクリが鬼気迫る様子でカイルに詰め寄った。


「あっ、あたしは!? アンタにとってあたしは何!?」


 カイルは考えた。


 言うまでもなくエクリはただのパーティーメンバーだが、わざわざ質問するからには、きっと違う答えを求めているのだろう。


 シシーが相棒であり家族なら、エクリはパーティーの一員であり――


「……ペットみたいなもんかな」


「ぺ、ペット……」


「昔飼ってたネコにそっくりでな。不器用なところとか、何やってもうまくいかないところとか、見ていてほっとけないところとか……」


「はは……ペット……。あたしはペット、か……」


 ガックリと沈むエクリに、シシーが歩み寄った。


『気に病むことはありません。見方によっては、ペットも家族と言えるでしょう』


 傷ついたエクリの心に、カイルの“家族”からの言葉が重くのしかかった。


「ううううっ……! 嫌味か、バカぁ!」


 涙ながらにその場を走り去るエクリ。


 その背中を見送り、残されたカイルとシシーはその場に顔を見合わせた。


「……なあ、俺なんか悪いことしたかな?」


『気にする必要はありません。彼女の精神状態の変化は、おそらく生理的なホルモンバランスが乱れたことによるものです。時間の経過によって解決することでしょう』


 シシーの言ってることもわかるが、あれで根に持ちそうだからなぁ。

 と、カイルは一人ごちるのだった。

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