第5話 海賊との戦い
縄張りに入ってきた
戦力差で言えば、楽な相手だ。
数に任せて力押ししようとしたところで、海賊のレーダーに不可解な物体が表示されていた。
「なんだ、これ……?」
動きからいって、ミサイルの類ではない。
まるで、敵の船が一気に12隻も増えたような……
「敵のドローンが、こちらに攻撃を開始しました!」
部下からの報告を受け、海賊の頭領はほっと息をついた。
通常、宇宙船同士の戦闘はシールドによる防御力を頼りに展開される。
シールド持ち同士の戦闘はお互い決め手に欠けるまま膠着状態となり、戦いが長期化することがほとんどだ。
だが、基本的にドローンにはシールドが搭載されないため、力押しで容易に攻略することができる。
いくらドローンの数を揃えようと、こちらの脅威にはなり得ない。
「応戦しろ! シールドのないドローン相手だ。軽く蹴散らしてやれ!」
取り外した基盤を清掃し、異常のあった箇所を新品に交換する。
修理も大詰めを迎えたところで、シシーから戦況が伝えられた。
『A11が被弾。速射砲、レーザー砲が使用不能となりました』
ウィンドウには赤い点に囲まれるように青い点――故障したドローンが点滅しており、残る命が風前の灯火であることを告げていた。
やはり、シールドのないドローンでは、シールドを持つ相手には大きく不利を取っている。
となれば、相手にもこっちと同じ条件で戦ってもらうほかあるまい。
「……A7でアンチシールド装置を起動しろ」
一機、また一機と敵ドローンに攻撃を当てていく。
海賊たちの勝利は目前に迫っている――はずであった。
「なんだ、これは……」
僅かにしか削れていなかったシールドゲージが、みるみるうちに減っていく。
「シールドが……溶けていく……」
海賊と応戦していたエクリのシールドも、海賊船と同様にシールドの残量が減っていった。
「ちょっと……なによ、これ……」
状況から見て、アンチシールド装置が動いていることは間違いない。
しかし、いったい誰が……。
数的有利を持つ海賊が、わざわざ自分が不利となる装置を使うはずがない。
シールド発生装置すら満足に維持できていなかった商人が持っていたというのも考えにくい。
そうなると、アンチシールド装置を使ったのは――
「まさか……」
『アンチシールド装置が発動しました。敵シールド消滅を確認』
シシーの報告を聞き、俺はニヤリとほくそ笑む。
海賊がドローン相手に有利に立ち回れていたのは、シールドの有無が大きい。
片やシールドを持たない自動操縦兵器。片やシールドを持つ宇宙船。
乱戦となれば、防御力が高く味方への誤射が気にならない海賊が有利なのは明らかであった。
しかし、敵のシールドが消滅するとなれば、話は変わってくる。
相手はドローンへの攻撃と並行して、回避行動も取らざるを得ない。
また、小回りや機動力ではドローンに分がある。
砲身の届かない位置に張り付いて速射砲を撃ち、装甲を剥がしていく。
ウィンドウに表示されたマップでは、予想通りドローンたちが海賊を翻弄しているのが映し出されていた。
そろそろ海賊たちに大打撃を与えてもいい頃か。
「A11を敵中に突っ込ませる」
俺の指揮に合わせて、青い点が赤い点の群れに突っ込んでいった。
「他のドローンの退避が済み次第――自爆させろ」
次の瞬間、海賊船を巻き込んでドローンが自爆した。
「なっ……」
「自爆、させやがった……」
最も近くにいた船が全壊に近い損害を被り、周囲の船にも少なくない被害が出ている。
ただのドローンではありえない威力。
この規模の爆発には覚えがあった。
「反物質エンジンか……」
あのドローンは電動ではなく、反物質エンジンを搭載していたというのか。
「無茶苦茶だ……」
通常、反物質エンジンは宇宙船に搭載するようなシロモノだ。
高出力、低燃費と引き換えに、宇宙船のエンジンにふさわしい価格をしている。
宇宙船の根幹を成す機械ということもあり、中古でもそれなりの値をするはずだ。
それを、
自家用車に原子炉を搭載するか如き暴挙。
アンチシールド装置といい、反物質エンジンといい、コストを度外視したとしか思えない武装だ。
「いったい、俺たちは何を相手にしているんだ……」
シールド発生装置の修理が終わり、小型船でシーシュポスに戻ろうとしたところで、シシーから通信が入った。
『A11の自爆が完了しました』
「敵の状況は?」
『一隻が大破。付近に展開していた二隻が中破。残る二隻も、少なからず損害を受けていると推察されます』
「オーケー。残りも殲滅しよう」
俺は小型船に乗りも込むと、シーシュポスに戻るのだった。
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