第6話 制圧完了

シーシュポスに戻ると、エクリに通信を送る。


「悪いな。いま戻った」


『ちょっと、なにしてたのよ! こっちは大変だったんだから! 見たことないドローンがたくさん飛んでいくし、シールドは無くなるし、おまけにドローンは爆発するし……』


「そいつは大変だったな」


エクリの抗議を聞き流し、退避させたドローンを再配置していく。


アンチシールド装置は解除すると、再びシールドの展開が可能となった。


エネルギーの充填をしつつ、シールドが再生していく。


敵はほぼ無傷の船が二隻に、手負いが二隻。こちらは戦闘可能な船が二隻に、申し訳程度の戦力に商船と11機のドローン。


ある程度戦力差は縮まったとはいえ、依然数的不利は明らかであった。


シールドが回復した海賊船から、順次攻撃が始まっていく。


『ひぃぃぃぃ! なんであたしばっかり!?』


海賊の集中砲火を浴び、エクリの船のシールドが溶けていく。


「エクリ、しばらく敵を引き付けてろ」


『今度はなにするつもり!? まさか、あたしを巻き込んで自爆なんてしないわよね!?』


「安心しろ。それはない」


『そう、よかっ――』


「海賊船に乗り込んで、ひと暴れしてくる」


『は!?』


素っ頓狂な声を上げるエクリを置いて、移動用の小型船に乗り込む。


「こっちは頼むぞ、シシー」


『了解しました。自動操縦モード、及び自動迎撃モードに移行。戦闘方針の指示を』


「作戦は……そうだな……」


小型船の窓から、チラリと外の様子を伺う。


「やつらのシールドが回復するのに合わせて、またアンチシールドを使う。シシーはシーシュポスとA4からA12までのドローンを使って、敵のレーザー砲や速射砲を破壊してくれ」


『了解しました。ご武運を』


「そっちもな」




ドローンを海賊船の近くに展開し、今度は海賊船の周囲にのみアンチシールドを展開する。


「なっ……」


「またシールドがっ……」


海賊たちが混乱し浮足立った隙に、海賊の母船らしき船に小型船をつけた。


船内に足を踏み入れると、周囲に気を配る。

対応が遅れているらしく、まだ海賊がやってくる気配はない。


「シシー、A3で船体をスキャンしてくれ。船内の構造と、敵の位置が知りたい」


『了解しました』


しばらくすると、目の前に船内のマップと共に海賊の位置情報が表示された。


マップの端。二つのエリアが赤く光る。


『操縦室はここから3ブロック先。機関室は5ブロック先となります。どちらへ進みますか?』


「操縦室だ。案内を頼む」


『了解しました――敵が接近しています。進路方向より右5メートル。まもなく接敵します』


「オーケー」


ナノマシンに命じ、近接モードをオンにする。


全身に力がみなぎってくるのと同時に、闘志が溢れ出した。


目の前に現れた海賊に肉薄すると、みぞおちに拳を叩きこむ。


「がっ……」


一撃で戦闘不能に陥ったのか、その場に崩れ落ちる。


海賊を殴った拳をしばし見つめ、シシーに尋ねた。


「……なあ、コンバットモードの威力、間違えてないか? ヘタしたら死ぬぞ、これ」


『デフォルトの設定から修正が加えられていません。設定を変更しますか?』


目の前に20項目にも及ぶ設定画面が表示されていく。


「いいよ、今は。パワーだけ10%オフにしてくれ」


『左方向より敵が接近中。距離、およそ7メートル』


この距離であれば、接近戦は得策ではない。


腰に下げたレーザー銃を抜くと、忍び寄る海賊の胴を撃ち抜いた。


「ぐっ……」


今度は気絶せず、出血した腹を抑えてその場にうずくまる。


「あと何人残ってる?」


『操縦室に3名の反応を確認。こちらの侵入に気づいたらしく、入口にバリケードを築いています』


「それじゃあ、こっちもを用意するか」






海賊の頭領は苛立っていた。


敵の侵入を把握して仲間を行かせたが、未だに戻る気配はない。


「敵は一人なんだろ!? なんで倒せない! マシューとクリスは何をしている!」


「それが……連絡がつかなくて……」


頭領が舌打ちをする。


侵入者を倒すと息巻いていたのに、このザマか。


「今のうちに、出入り口にバリケードを築いておけ。ここに立て籠れるようにな」


「でっ、でも、マシューとクリスがまだ……」


「全滅したら元も子もないだろ! アイツらだって、足手まといになるようなことは望んじゃいないハズだ」


子分たちに発破をかけると、バリケードの建築を始める。


と、そんな中、通路の奥から見覚えのある男がやってきた。


「なっ……」


「てめェ……」


やってきた男は、先ほど侵入者を倒すと息巻いていたマシューだった。


返り討ちにあったのか、腹から血を流しながら顔を青くしている。


その後ろ。負傷した海賊に銃を突きつけながら、こちらに敵意を向ける男がいた。


「コイツの命が惜しければ、銃を捨てろ」


「なっ……」

「こいつ……」


負傷した海賊仲間を人質に、男が銃を向ける。


こちら側がバリケードを築いたのと同じように、この男は倒した海賊を弾除け代わりに使用しているのだ。


海賊オレたちよりもあくどいことを……!」

「コイツ、本当に冒険者かよ……!?」


「……オレの手下になんてことを……テメェそれでも人間かよ!」


「海賊が説教するなんて、世も末だぞ。第一、お前らだって十分あくどいことはやってきただろ」


「だからって……オレたちだってここまで酷いことはしなかったぞ!」


「そうだそうだ! ちょっと商船襲って、たまに人殺しただけだろーが!」


「十分すぎるだろ、そんだけやってりゃ」


海賊の抗議を聞き流し、チラリと時計に目をやる。時間は十分稼いだ。


「――シシー、あと何秒だ?」


『およそ5秒です』


「は?」


「なにを……」


俺とシシーのやり取りがわかっていないのか、海賊たちが呆けた顔をした。


そろそろ、5秒経っただろうか。


ハッキング・・・・・が完了しました』


「オーケー」


盾にしていた男を蹴飛ばし、俺は頭領と思しき海賊に向き直った。


「な、なんだよ……」


頭領がにじりと後ずさる。


「仲間の足を撃ち抜いてくれ」


「あ? なに言って……」


俺の命令に反応して、頭領のレーザー銃が海賊の足を貫いた。


「なっ……」


困惑する他の海賊たちを尻目に、次々と他の海賊も戦闘不能にしていく。


「おっ、おい、やめろよ――」


「ち、違う! オレじゃない! 身体が、勝手に……」


二発、三発。確実に足を撃ち抜き戦闘不能にすると、ようやく自由を取り戻した頭領が俺を睨みつけた。


「テメェ……なにしやがった!」


「お前の中のナノマシンをハッキングした。もうお前の自由はきかないぞ」


「そんな……バカな……」


抵抗しようとするも、既に肉体の主導権はこちらにある。


どうすることもできず愕然とする頭領に、俺は最後の命令を下した。


「最後の仕事だ。これからアンチシールドでお前らの船だけ弱体化させるから、機関室でも操縦室でも狙って攻撃しろ。スキャンしなくても場所はわかるだろ? お仲間の船なんだからさ」


命令に従いコックピットに座ると、主砲を他の海賊船に向けていく。


「…………惜しいな……もしお前が海賊だったら、最強の海賊だって目じゃなかったのによ……。何で冒険者なんてケチな仕事にやってんだ……」


「悪いな。俺の天職は冒険者なんだ」


「……うそつけ」


別動隊のドローンでアンチシールド装置が発動するのと同時に、味方目掛けて全砲門が火を噴いた。


すべての海賊船が戦闘不能になると、海賊たちは降伏を申し出るのだった。

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